アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1137

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

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【公判調書3502丁〜】

               「第六十四回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=関口  実(四十四歳・農業)

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宇津弁護人=「それからさっきあなたがカバンの向きを少し覚えていると仰いましたね。それを表現してもらうとどういう格好であったと言うんですか。頭に浮かんでいることを言って下さい」

証人=「まあ四割くらい出ているような気もするんですけれども、土の中からねぇ。向きは・・・・・・そうだなあ、カバンというのは長いからね、東西に長く置いてあった覚えもあるんですね」

宇津弁護人=「カバンの持つ所がありますね。それはどうなってましたか」

証人=「それは・・・・・・ただ溝がありまして、普通カバンは長方形ですから、川なりに置いてあったように思いましたね」

宇津弁護人=「持ち手の所は」

証人=「それがどっちだったかねぇ・・・・・・それは忘れましたね」

宇津弁護人=「それじゃそこまで思い出せたならば牛乳ビンはどういう位置にありましたか、カバンとの関係で言うと」

証人=「牛乳ビンのほうが西にあったような気もするんですけれどもね」

宇津弁護人=「カバンの西」

証人=「はい」

宇津弁護人=「どれくらい離れてましたか」

証人=「これは離れて、というより傍らにあったような気もしていて、ちょっと目に浮かんでいるんだけれどもね」

宇津弁護人=「牛乳ビンはビンの形が全部表に出てましたか」

証人=「ええ、そんなに古くないような感じに残っているね、ビンは古いんじゃなくて新しいような感じを覚えているんです」

宇津弁護人=「ビンの形は全部表に見えていましたか」

証人=「ええ、本当に底が少し残ってるくらいで、土の中に入っているほどじゃなくてね、あったような気がするんだけれども」

宇津弁護人=「だいぶ具体的に言われているんですけれども、さらに書きますけれども、そうするとカバンとビンの間の距離はどれくらいか、もう一度思い出して下さい」

証人=「何だかわからないけど、ちょっと見た瞬間牛乳ビンとカバンがあったというような」

宇津弁護人=「今あなたの頭に浮かぶ程度でどの程度かを言って頂きたいのですけれども」

証人=「カバンと牛乳ビンはすぐ傍らにあったような、カバンのすぐ傍らですね、そんなような状態ですね、目に浮かんでいるのは」

宇津弁護人=「あなた現場ではカバンと牛乳ビンを一緒に見ることが出来たのは間違いないんですか」

証人=「そんな覚えがあるんですね」

宇津弁護人=「それから、あなたが先ほど山仕事のことを自宅で聞かれたというその時期は、カバンの現場に行った日の後ですか、前ですか」

証人=「それは前です」

宇津弁護人=「何日くらい前ですか」

証人=「・・・・・・あれ一日でしたねぇ・・・・・・」

宇津弁護人=「カバンの所に行った後はあなた本当に調べられてないんですか」

証人=「そのカバンのことではちょっと見ただけで、あとは全然調べを受けたことはないですねぇ、聞かれたこともないと思ったんですけれどもねぇ」

宇津弁護人=「カバンの所に行った後で警察に呼ばれた記憶はないんですか」

証人=「記憶ないですね」

宇津弁護人=「では、いわゆる事件の当日の山仕事のことを述べた時にあなたの言ったことが調書になって、あなた署名捺印しているわけですか」

証人=「それはしてないと思ったね。ただ聞かれただけだと思いましたねぇ」

宇津弁護人=「あなたは狭山警察署にはこの事件とか他のことも含めて、一度もそこに足を運んだことはないですか」

証人=「自分から運んだということはないですねぇ」

宇津弁護人=「つまり何かで狭山署に出かけて調べられたことは未だかつてないと」

証人=「ええ、ありませんねぇ」

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裁判長=「証人は一日、事件の日に、その行き帰りのことを警察に聞かれたと思うと言うんですが、一日の日なんですか」

証人=「さあ、そう思うんですけど」

宇津弁護人=「じゃあ、山仕事のことを聞かれたのは五月一日と言いましたね。時間は何時頃聞かれたのですか」

証人=「・・・・・・・・・」

宇津弁護人=「あなた山仕事のことを聞かれたのは、事件との関係でいうと善枝さん殺しの関係で聞かれているわけですか」

証人=「ええ、そうだと思ったねぇ」

宇津弁護人=「五月一日というのはちょっと早過ぎるんだけれども、五月一日という何か記憶していることでもあるんですか」

証人=「山仕事に行ったことについて警察官に聞かれたこともないのに聞かれたりして、家に来たので何というかショックで覚えていますね。それに五月一日というのはお祭りの日のことだから、それでまあ忘れられないようなあれで」

宇津弁護人=「そうすると、五月一日のあなたの行動を聞かれたということですか」

証人=「ええ、そうですねぇ」

宇津弁護人=「そういうことを聞かれた日はいつ頃聞かれたの」

証人=「十日後だか十五日後だか、それは忘れてしまったねぇ、一カ月後だかねぇ」

宇津弁護人=「何かと比べて、聞かれたのはいつ頃だったと思い出してもらいたいんですが」

証人=「・・・・・・・・・」

宇津弁護人=「カバンのことがあった前であることは間違いないんですか」

証人=「ただ聞かれたということだけで・・・・・・あとは忘れました」

宇津弁護人=「あなたカバンの所に行って見たということはあるようだが、あなた一日の行動を聞かれたというのはカバンの立会いをする前なのか、後なのか思い出してもらいたいんですが」

証人=「まあカバンの発見された前のような気もするが、はっきりはわからないんですね」

宇津弁護人=「それから六月二十三日頃にあなたは検事さんから何か聞かれて調書を取られたことがあるんですか」

証人=「そういう記憶はないですねぇ。忘れてしまったのか・・・・・・」

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山梨検事=「尋ねた場所をお聞きになってはいかがですか。入間川第三駐在所ですが」

宇津弁護人=「駐在所で検事から何か聞かれた記憶はないですか」

証人=「それも忘れちゃったねぇ」

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山梨検事=「先ほどカバンを発掘した現場では警察官が立会い人になってくれとも何とも言わなかったと」

証人=「はい」

山梨検事=「その前に、畑を移動する時ですか、何か、めがねをかけた人から声をかけられたことがあるというようなことを言いましたね、その、声をかけられた意味はどういう意味だったのか、どうですか」

証人=「・・・・・・・・・」

山梨検事=「これはこの前の調べの時のは、"もう家に帰るんですか、もう仕事が終わって帰るんなら立会い人になってくれと頼むつもりじゃなかったのかなあと思いました"という風になっているんだが、そういう意味で、あなたの記憶にめがねの人に声をかけられたという記憶が残っているんじゃないのですか。もう畑仕事は終わったのかと、こっちはまだ仕事があるんだというので、そのまま行ってしまったということと記憶が結びついて、めがねをかけた人というのが出て来るんじゃないでしょうか」

証人=「・・・・・・・・・」

山梨検事=「わからないですか」

証人=「どうも記憶が・・・・・・・・・」

山梨検事=「(前同一三六四丁の図面を示す)カバンの発見された現場のすぐ南側の山林の所有者が斉藤実になっていますね。これは今、二人いると言われたどちらの人」

証人=「写真にいたのは山林の持ち主じゃないですねぇ、お菓子屋さんです」

山梨検事=「この所有者とは」

証人=「名前は同じだけど違いますね」

山梨弁護人=「この所有者は菓子屋とは違う斉藤実さんですか」

証人=「ええ、そうです」

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       昭和四十七年八月十日    東京高等裁判所第四刑事部

                                                裁判所速記官   沢田怜子  印