『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
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【公判調書3456丁〜】
東京高等裁判所 昭和三十九年(う)第八六一号事件
第六十四回公判調書添付「別紙二」
"証拠調請求に関する弁護人の弁論"
一、証拠申請弁論
証拠調請求(昭和47年7月27日附)についての意見陳述 (前回より続く)
弁護人:佐々木哲蔵=「本件証拠調請求は、本日付事実取調請求書に記載の通りであります。一は書証(鑑定書)であり、二は証人(鑑定における)であります。
右の内容は大別して、二つに分かれます。その第一は前記取調請求書の(一)(二)(三)(四)であり、これは、被告人の自白が客観的な事実に合わないという点に関するものであります。その第二は(五)(六)で、これは、これまで触れられなかった「玉石と棍棒」「残土の処理」に関するものであります。それは本件犯行が被告人の行為と結び付かないという点に関するものであります。
先ず第一のもの、即(すなわ)ち被告人の自白が客観的事実に合わないという点に関して(一)は、京都大学法医学上田政雄主任教授作成の鑑定書でありますが、その主たる内容は本件死体解剖の所見からは、(イ)被告人が自白しているような首の締め方による死因は考え得られないこと、(ロ)被告人が自白しているような逆さ吊りの所見は認め得られないこと、(ハ)後頭部の傷は、死後発生のものと考えられること等である。詳細は担当弁護人に譲りますが、右の所見は、被告人の自白を根底から覆すに足るものであり、しかもこれまで明らかにされなかったものであります。
次の(二)の鑑定書、これは脅迫文の筆跡鑑定上の所見でありますが、これは本件脅迫状の文字と、被告人が書いた昭和三十八年七月二日付、被告人の検察官に対する供述調書添付の文書(脅迫文)の文字とは同一人の筆跡とは認められないというものであります。これは従来の鑑定即(すなわ)ち、本件の脅迫文は被告人が書いたものと認められるという鑑定と全く相反する新しい鑑定であり、被告人の自白を根底から覆すものであります。この鑑定人:綾村勝次氏は京都の権威ある専門家であります。
次の(三)の鑑定は、京都市教育委員会の磨野久一氏のもので、本件脅迫文は小学校五年程度の学力、能力を有する者(被告人)の記述したものとは認められないというもの。更に、(四)の鑑定は、本件脅迫文の筆者は、脅迫文の筆者たり得ないというもので、これは万葉仮名の日本的権威、学習院大学の大野晋氏の作成に係るものであります。右(三)(四)ともに被告人の自白を根底から覆すもので、しかも新しい証拠であります。
次に第二の部に属するもの即(すなわ)ち、(五)の『玉石と棍棒』の鑑定、これは、これまで全く触れられなかったものですが、『本件実況見分書記載の"玉石"は墓石(拝み石)と対応するものであり、"棍棒"はハジキの変形と思考される。然るに狭山市富士見地区の被差別部落の墓制および葬送習俗においては墓石の制度は全く認められず、またハジキの習俗も残っていない』というものであります。この鑑定は、東京教育大学:和歌森太郎教授、京都大学:上田正昭教授の共同作成に係るものであります。この鑑定の結果は、このような墓制を知らない被告人:石川と本件犯行が結び付かないことを証明しているものであり、これまた新しい証拠であります。
最後の(六)の鑑定書は、(イ)本件『玉石』と呼ばれるような石が、自然の生成過程の中で本件現場の土壌中に存在することは考え得られないこと、(ロ)本件の場合、掘り出した土を死体を埋めないで、埋め戻した場合、地上の残土が、石油缶約十六杯分くらい残ることが明らかにされている。右の鑑定書は東京大学農学部:八幡敏雄教授作成に係るものである。右鑑定の結果は、この玉石の説明が全くない被告人の自白が不自然であること、残土の処理に関する被告人の自白が、現場の客観的情況に符号しないことを明らかにしている。これまた、これまで解明されなかった新しい証拠であります。
以上、請求しました鑑定書はいずれも、それぞれの専門家による科学的な鑑定であり、これまでの証拠調に出ていなかった新しい証拠であります。そして、そのどれ一つ取っても、本件を被告人の犯行とする第一審判決を根底から覆すに足るものであります。これはあたかも再審請求の要件としての新規性、明白性を備えた証拠にも該当すると思われる程の極めて重要な新証拠であると思料されるものであります。
本件は昭和三十八年五月発生の事件であり第一審を含め、今日まで約九年間の審理期間を費やしております。この審理期間は、それ自体決して短いものとは謂い得ませんが、然(しか)し死刑事件で、強く争われている事件の場合は、他の例から見ましても九年の審理期間はそんなに珍しい程、長期のものではないのは裁判所もとくと御承知のことと思います。特に本件で控訴審になってからのものであるという特殊の事情によることも考慮されねばなりません。若し、その被告人が真犯人とすれば極刑が予想されるような事件の場合は、被告人を始めとして、訴訟関係人全員の納得のいく審理のためには相当長期の審理期間もやむを得ないと思います」
(続く)
芋穴(農産物のさつまいもを貯蔵する穴)の中にはビニール風呂敷(二つの角が切断されている)と、長さ九十四センチの棒きれ(法廷では棍棒と表現)があった。
芋穴の蓋の上に置かれたビニール風呂敷片と棒きれ。
埋没された被害者の頭部付近には「玉石」があった。この石と上記の棒きれが実は狭山地方の葬送の風習に関連しているのではとの、これは弁護団の主張である。