アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1111

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

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【公判調書3452丁〜】

                    「第六十四回公判調書(手続)」

        証拠の開示に関する発言   別紙一記載のとおり

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          別紙一   "証拠の開示に関する発言"

二、検察官(要旨)

山梨検事=「当審第五十八回公判期日において、弁護人から、だいたい本日と同様の意見陳述があり、それに対して検察官も意見を述べた。

検察官としては、その際述べた通り、昭和四十四年四月二十五日、最高裁判所第二小法廷決定の趣旨に鑑みて、弁護人から、具体的に必要性を明示して請求があれば、手持ちの証拠を開示するにやぶさかでない。ただし、先日開示した奥富玄二の調書中に、同人が、元中田家の作男であった旨の記載がある点、および、別に開示した中島イクの調書中に、五月一日被害者が、ガード下にいるのを見たという記載がある点をとらえて、先刻、松本弁護人は、被害者が奥富玄二とデートしていたかの如きことを述べたが、証拠を開示した結果、左様な、いわゆるつまみ食いをされるのでは真実が歪曲される恐れがある。奥富玄二が中田家の作男をしていたのは、同人が小学校を卒業して間もない時のことであり、一方、被害者はその当時ハイハイしていたのである。又、中田登美恵の時計の石の数の点であるが、十九石であったか十七石であったかは、中田登美恵自身も明確には知らなかったのであって、さきに開示した同人の調書中には、十九石と述べた所と十七石と述べた所とがあるのである。然るに、弁護人は、たまたま十九石と記載された一点をとらえて、事件発生後八年を経過した時点で中田健治が十七石と言った点を攻撃し、それによって、同人の証言を崩したかの如く言うのは、それが本当の意味の真実の発見であるかどうか憂慮するものである」

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裁判長=「昭和四十四年四月二十五日の最高裁判所第二小法廷の決定は、先ほどの松本弁護人の陳述にも含まれている通り、訴訟指揮権に基づく証拠開示命令を発するについては種々の条件を設けて、いわゆる絞りをかけているのである。

当裁判所としては、検察官に対する証拠開示命令に関し、右最高裁判所判例に示されたところより緩やかな解釈をとる考えはない。従って、検察官手持ちの全証拠について開示を求めるという考え方には賛成し難い。対象を特定した上での開示請求であれば検察官も応ずるであろうし、裁判所としても検察官に対して開示を命ずることもあるであろう。対象を具体的に特定して請求があれば裁判所はその段階で開示命令を発するか否かを決定する」

松本弁護人=「本件では、全部の証拠の開示がなければ事件の全貌が明らかになりません。全面的な開示命令が出せるかどうかは別として、大乗的(注:1)な立場で、検察官に対し全部の証拠を開示したらどうかと仰って頂けないでしょうか」

佐々木哲蔵弁護人=「全証拠の目録を作成して渡すことを勧告して下さったのでしょうか」

裁判長=「それらの点については未だ何れとも決めておりません。全証拠の目録を作成交付するようにという命令をすることは出来ないと考えています」

主任弁護人=「我々としては、他にどのような証拠があるのか分からないので、特定することも出来ないのです。検察官も『まだある。警察がどの程度の証拠を持っているのか私にも分からない』と言ったことがあるのです。裁判長から検察官に対して、全証拠の目録を作ってやったらどうかと聞いて下さるのが話を進めて行く方法ではないかと思います」

裁判長=「裁判所としては仮に勧告であっても、やるべき限度を超えてやるべきではないと考えております。検察官が閲覧に供するというのであれば裁判所がそれをチェックすることはありません」                  以上

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 東京高等裁判所  昭和三十九年(う)第八六一号事件

                第六十四回公判調書添付「別紙二」

             "証拠調請求に関する弁護人の弁論"

一、証拠申請弁論      

証拠調請求(昭和47年7月27日附)についての意見陳述                          弁護人   佐々木哲蔵

「只今から証拠調請求をいたしますが、この証拠調の必要性について、初めに私からその概括的意見を申し上げ、次で、各個の点に就(つい)て、それぞれの担当弁護人からその説明をして貰うことに致しましす。

先ず、この証拠調請求は、もっぱら鑑定に関するものであります。これは今日までの審理で未解明だったもの、触れられていなかったもので本件の裁判に重要な関係を持つものであります。この証拠調請求は、弁護人全員で相当長期に亘(わた)り慎重に審議した結果、全員一致で是非ともお取調べを頂きたいというので申請しているものであります。これらの鑑定はいずれも弁護人側の依嘱により夫々(それぞれ)専門家により、既に鑑定されている結果が鑑定書として出来上がっているものであります。これらの鑑定書を証拠として提出するわけですが、若しこの鑑定書が、検察官のご同意を得られない場合は、これに加えての証人なり鑑定なりの請求ということになる性質のものであります。従って若しそのような事態になりますと、今後、相当の審理期間が必要とみられるわけであります。然(しか)し、この場合、之(これ)は決して、この裁判を故意に引伸ばそうとする意図のものでは微塵もありません、もっぱら本件について公正にして納得のいく審理と裁判を仰ぐ意味で、是非とも必要であるというただその見地からのものであるのは申すまでもありません。もっとも本件審理のこれまでの経過から見まして、この証拠調請求は、若干、時期的に遅れているという感じはございます。然(しか)しながら事件についての色々の疑問点と、これについての解明の証拠方法というようなものは、しばしば事件の進行段階において生起するということは当然考え得られるところであります。従って、たとえ時期的に遅れたものであっても、裁判、特に実体的真実発見を理念とする刑事裁判については、これが審理のために是非とも必要であると認められる以上、この取調べを為すべきは当然のことであると思いますし、この点はかねて裁判長も我々に明言しているところであります。ただ、前述しましたように本件鑑定書が検察官の同意を得られない場合において、この審理期間の点につき、裁判長が、かねて率直に本件審理期間のタイムリミットを我々弁護団に告げておられる点との抵触の心配があります。我々としましては、このような抵触は何とかして避けるようにしたいということを念じつつ、然しながら、この証拠調は、是非ともご採用願いたいという我々弁護団の心情について深いご理解を頂きたいのであります」

(続く)