1908年(明治41年)に生まれ1963年(昭和38年)死去、即日、閻魔大王の元へ連行されその舌を引き抜かれたであろう紅林麻雄は拷問捜査のエキスパートであり、その門下生どもが袴田事件を含む数々の冤罪事件に深く関与したことは間違いないと思われる。
今回の袴田事件無罪判決に不服な司法の方は、紅林麻雄なる男の捜査手法を検証すべきであり、彼の影響下にあった警察官らがその後、どのような事件に携わりその捜査が適正であったか徹底して検証すべきであろう。
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『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
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【公判調書3440丁〜】
「第六十四回公判調書(手続)」
証拠の開示に関する発言 別紙一記載のとおり
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別紙一 "証拠の開示に関する発言"
一、弁護人
松本弁護人:証拠の全面開示の請求に関する意見を述べます。最終的には、検察官が、本件捜査に関するすべての証拠を開示されるよう求めるものであります。
第一に、本件の基本的特徴は、自白を根拠としてそれに結びつけた証拠だけが存在するということである。
先ず、自白について言えば、本件では自白だけが唯一の決定的な証拠であり直接証拠が存在しません。つまり、犯行に供用した物件又は遺留物件で被告人の物であることが客観的に認められるものはないのであります。
例えば、善枝の両手を縛った手拭いは、五十子米屋が配った百五十数枚の中の一枚とされているのでありますが、石川方に配布された二本は、いずれも同人方から提出されました。従って、その手拭いを石川一雄君が使用したとは言えないのであります。
荒縄についても、新築家屋の縄張りに使用されていたものであるとの証拠は無い、即ち、本件に結びつける価値は無いのであります。
善枝の首に結んであった木綿紐は、石川君の自白にも出て来ないし、被告人に関係あるものであることの証拠は無い。木綿紐が如何なるものであるかについての証拠は何もないのです。
ビニール風呂敷について、中田健治は、死体発掘の時は被害者の物ではないと言ったが、その後供述を変えて善枝のものだと言ったのであります。何処にでもある風呂敷で製造元、配布先についての証明は何一つありません。被告人との関係は何も出ていないのであります。
スコップについては、石田一義の豚小屋から盗まれたものとされていますが、それは、五月十一日に、須田ギン夫婦により、死体が埋められていた地点の西方百二十四.六メーターの所で発見されたものとされております。五月十一日付実況見分調書によれば、一方の畦道から僅か〇.八メーターの所にあったというのであります。五月三日から山狩りをしていて、四日に死体が発掘されたのですから、捜査は、死体発掘場所を中心として、相当細かく行なわれたにも関わらず、山狩りを打ち切った段階で死体発掘場所から一〇〇メーター余りの至近距離で、畦道から〇.八メーターの所で発見されたのです。これは被告人が遺留したとの根拠はなく、本件との結びつきは何もありません。
脅迫状に使用された大学ノートについて、被告人は、妹美智子のノートを四、五枚破いて、四月二十八日に書いたと述べたのですが、五月二十三日の第一回捜索で、すべてのノートを押収したのに、引きちぎった形跡のあるノートが発見されないため、即日還付されました。従って、脅迫状に使用したノートは、本件と関連するものとしては存在しません。
五月二日夜、佐野屋東方の畑にあったとされる足跡については、現場写真が提出されていません。又、死体発掘現場の足跡の写真又は報告書、スコップ発見場所の足跡に関する報告書も提出されておりません。
足跡は、被告人が、兄の地下足袋を使用して作ったものとされておりますが、被告人と現場を結びつける物的証拠はありません。被告人が本件犯行をしたものとすれば、被告人の衣服には、善枝の後頭部から出血した多量の血痕が付着している筈です。被告人が自供したところの状況であれば、既に善枝は後頭部に相当大きな裂創を負い、その善枝を被告人が抱きかかえて運んだのであれば必ず衣服に血痕が付いている筈であるのに、血痕のルミナール反応が出たとの証拠は提出されていません。このことは、犯行を否定する証拠であると言えます。本件が被告人の犯行であるとすれば、必ず被告人が遺留した筈の指紋が存在しない。被告人の指紋が発見されなかったものとみるべきであり、自転車・脅迫状然り、更に万年筆についても必ず被告人の指紋が付いているべきなのに付いていない。時計についても同様であります。善枝の膣内の精液がB型であり、被告人の血液型がB型であっても、被告人と犯行とを結びつけるものではない。血液型については、被告人が犯人でないとの事実が確定されなかっただけのことであります。
本件には、被告人と犯罪とを結びつける直接証拠がありません。人証についても、被告人と犯行を結びつけられるものはないのであります。被告人の自白以外に被告人と犯行を結びつけるものは無いのです。
(続く)