アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1105

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

被害者宅に届けられた封筒には当人の身分証と身内に向けた脅迫状が入っていた。

三木証人はこの封筒の裏面にある封緘部分を検査し血液型の特定を試みたが・・・。

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【公判調書3432丁〜】昭和四十七年八月四日

                  「第六十三回公判調書(供述)」

証人=三木敏行(五十歳・東京大学医学部法医学教室主任教授)

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宇津弁護人=「それから本件の鑑定をなさるにあたって血液型としてはB型が問題になっているということを何らかの方法で聞いておられましたか」

証人=「ええ、私のほうからお聞き致しました」

宇津弁護人=「どなたにお聞きになりましたか」

証人=「裁判所のほうにお聞き致したんですけれども、係の事務官にお尋ね致したか、裁判官のほうにお尋ねしたかはちょっと今記憶ございません」

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裁判長=「それは鑑定を命ぜられた時でしょうか、それとも普通の法廷以外のような所ですか」

証人=「法廷以外の所でございます」

宇津弁護人=「それは鑑定のためのいろんな試験をなさる前にそういうことを聞かれたのですか」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「日にちはいつ頃か、ご記憶ありますか」

証人=「検査を始める前という記憶だけでございます」

宇津弁護人=「それで血液型については何型ということが問題になっていると聞かされましたでしょうか」

証人=「B型が問題になるというようなことをお聞きしました」

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裁判長=「これはなかなか全部いろんな検査方法を理解しようと思うと専門的になって難しいんですが、例えば『濾紙片に作った唾液斑を使用し』という記載がございますね」

証人=「はい」

裁判長=「これはどういうことなんでしょうか」

証人=「濾紙を私たちの回りの人で、血液型の分かっている人に舐めてもらいまして、そして唾液斑痕を作って、それを検査したということでございます」

裁判長=「それから、アミラーゼテストというのはどういうテストなんですか」

証人=「アミラーゼというのは唾液の中にあります酵素でございます」

裁判長=「十四ページの抗ヒト唾液血清に対する沈降反応、この反応はどういうことを意味するために使われるんですか」

証人=「唾液であるということを証明するするのにはいくつかの方法があるわけでございまして例えば、あんまり特異性がないと言われていますけれども、紫外線をかけると光が出るということを言う人もあります。また、唾液の中にアミラーゼという酵素がありまして、これは唾液に、非常に特徴の強い酵素でございますから、その酵素の活性を調べるという方法もございます。それからまた、唾液ですと唾液に特有な一つの化学構造があるわけでございます。よく分かりませんけれども、とにかくあるんだろうと思われるわけです。その化学的な構造を調べようという一つの考え方があるわけですけれども、それを調べる場合に現在のいろんな化学的な分析ではなかなか難しいものですから血清学的な方法というのを使うわけです。ですからこの唾液血液に対する沈降反応というのは一つは唾液の中の特異的な化学構造があるかどうかというのを調べる方法のうちの一つに考えて頂ければよろしいと思います」

宇津弁護人=「そうすると、これは非常に漠然たるお尋ねなんですが、これは唾液だということは分からない、だけど血液型のほうはこういうものの反応らしきものが見えるという風な記載がなされているという風に考えるんですが、それはそうでしょうね」

証人=「それはそうでございます」

宇津弁護人=「それはどういう風な場合にそういう風なことになるんですか」

証人=「それは唾液のいろんな反応が出なくても、例えば血液型のほうではっきりとした、疑いのないような反応が出るということになれば、それで判定してよろしいと」

宇津弁護人=「唾液のほかに、血液型の反応が出るものとしてはどういうものがありますか」

証人=「それはたくさんございまして、例えば人間の体液、精液、汗、涙、そういうものは血液型の反応が当然出るわけでございます」

宇津弁護人=「そうすると、その涙であるとか、精液であるとか、唾液であるとかというようなことは分からないにしても、何らかの体液的なものがあるから、それで血液型の反応も生じ得るんだと、こういう風に考えてよろしいんですか」

証人=「これはそういうわけではございませんで、実は私たち検査を致す時には常に対照試験を置いておくわけです。ある検査物件がありますと、それが正しいかどうかを調べるためにいくつかの対照試験を置いてやって、対照試験のほうが全部陰性であって、問題の検査だけが陽性であるという時に初めて検査に価値があると、こう判断致すわけですが、この場合にはその対照試験が若干疑わしいという成績がありましたので、その、本試験のほうの成績も信頼性がおけないという風な結論を下したわけです」

宇津弁護人=「そうするとこの封緘部分と、それから封緘部分じゃない、糊を予め貼り合わせたんだろうと思われるようなところからB型の反応みたいなものが出たように思われるという風に仰ってるのは、どういうことが補充されればこれがB型に違いないと、あるいはそういう確実性があるということになるんでしょうか」

証人=「・・・・・・実は、それを何とかできないかと思ってかなり考えたんですけれども、どうしてもやって見ますと、貼り合わせの部分にはBが出ますものですから、いろいろそれは抗血清を変えてみたり、何かいい方法はないかと思って考えたんですけれども、出来ませんでした」

宇津弁護人=「結局これはまあ、分からないと」

証人=「はい」

宇津弁護人=「その場合に本件でとられたのはEというところですね」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「そうじゃなくて、もっと同じような部分でE以外の部分も試しにやって見ようじゃないかという風なことはお考えにならなかったんですか」

証人=「そこまではちょっと考えませんで、実は検体を取りましてから封筒をお返ししてしまったものですから、手元にある検体が限られたものでありましたものですから、そこだけしか致しませんでした」

宇津弁護人=「何か補充されたらこの辺がB型であるという風に判断が下し得たかということは結局分からないと、こういう風に伺ってよろしいんですか」

証人=「はい、今のお話に、仮にほかの封筒貼り合わせ部分で出なくても、この私たちがやったことにこれだけ出てるということになりますので、やはりBがあるということはほかの部分があってもなかなか積極的に言うのは難しいだろうと思います」

宇津弁護人=「そうするとその、アラビアゴムとか、澱粉糊、そういう風な先に大沢鑑定人がなさったような糊質という風なもの、そういうものからはこういう血液型と同視すべきような反応が出るということはあり得ないんでしょう」

証人=「いや、全然ないとは言えないと思うんです」

宇津弁護人=「その試験はおやりにならないんですね」

証人=「ええ、それはやっておりません」

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昭和四十七年八月四日          東京高等裁判所第四刑事部

                                                     裁判所速記官  重信義子