アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1102

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

被害者宅に届けられた脅迫状。

                                            *

【公判調書3424丁〜】

                  「第六十三回公判調書(供述)」

証人=秋谷七郎(七十五歳・昭和大学薬学部長兼教授、東京大学名誉教授)

                                            *

山上弁護人=「先生はこの検体万年筆は、別に同一メーカー製品の万年筆を実験にお使いになったようでありますね」

証人=「はい」

山上弁護人=「『腰の強さがほぼ等しい同一メーカー製品の万年筆』と、そういう風にありますが、その、先生が検体万年筆とは別にお使いになった万年筆は新品でございましょうか」

証人=「これは新しく買ってやったんですから、もちろん新品です。みんな方々の小売店から買ってきたものですから」

                                            *

裁判長=「Rf値という言葉が使われておりますが、これはどういうことでしょうか」

証人=「これは全く専門用語でありまして、これも終戦後こういう新しい微量分析法が発見されたんですが、一つのファクターなんですが、Rfというのは一つの専門用語であって、全世界共通の言語になっておりますので一つの函数であるとお考え頂ければいいと思います」

裁判長=「この写真で何かこういうものだということは分かりましょうか」

証人=「写真では、もうどういうものだということを分かるには、はっきりしたものを並べて、このものとこのものはだいたい相等しいかと調べる時にこういうような方法を取るわけでして、したがって同じものだったら写真20をご覧頂きますと分かりますけれども、全く同じものでありますとほとんどこの下のほうのラインにまずサンプルを付けまして、一定の条件下においてしばらく放っておきますと、拡散現象と申しまして、すっと上に染み込んで、これは濾紙を使っておりますが、非常に多孔性の強い濾紙ですから、そこをずっと上がってまいります。時間も決めておいて、同じものならば同じ温度で同じ条件下において同じ所でそれ以上、上がって来ないという長さを比較していくわけです。そこで左のほうがS.真ん中がP. S+Pとありますが、S+PとPとは全く同じものであるということがここで言われるということです。で、Sはちょっと下がってこれはちょっと違う、これも鑑定書の中にはこの違う理由は詳しく説明してございますが」

裁判長=「このPというものの説明に『Pは脅迫状よりメタノールで抽出した色素』という説明がございますね」

証人=「はい」

裁判長=「この脅迫状というのは、脅迫状の紙を言うんでしょうか」

証人=「脅迫状の字と書けばいいわけですが、そこから薬品を使って取るわけです」

裁判長=「紙自体じゃない」

証人=「はい」

裁判長=「今ご覧になった脅迫状の『五月二日』それから『さのヤ』という文字のところが多少インクが散ったような風になっておりますね」

証人=「はい」

裁判長=「これは今の実験をされたんで、有機溶媒とか水に対する溶解性、そういうものの試験をなさったんで、そういう風にインクが散ったようになっているという風に考えてよろしゅうございますか」

証人=「それももちろんはいっております」

裁判長=「その部分だけおやりになったんですか」

証人=「そうでございます。この部分だけでございます」

裁判長=「それから、鑑定事項の中には万年筆に残留するインクということが一つ書いてあるんですが、その万年筆に残留するインクはもう無くて、それの材料とはならないんだという意味で鑑定書には現われていないんじゃないかと思うんですが、ご覧なさった万年筆に残留するインクと、それから脅迫状ないしは封筒の記載文字のインクの同一性については鑑定が出来なかったんだという風に伺ってよろしいでしょうか」

証人=「そうなんでございます。事実仰る通り、全くもう乾いちゃって、あったとしてもごく微量でして、化学的、物理的処理をしようとしても、ほとんどどうにもならないという状態であります」

裁判長=「それは書いてないけれども」

証人=「そういう意味でございます。ご了解願いたい」

                                            *

藤田弁護人=「先ほどの証言で、この脅迫状の下の部分の右の所に『五月二日さのヤ』というのを二回書いておられるが、これは鑑定人が書かれたということですね」

証人=「はい」

藤田弁護人=「この文字は本文の中で訂正箇所として出てくる『五月二日』ないしは『さのヤ』という文字に似せることを意識して書かれた文字でございましょうか」

証人=「それはですね、なるべく同じような格好に一つ書いて見ようと書きまして、それを写真に撮って、どんな相違が出るであろうかということはこの文字の一画一画についての微細な観察をしたいと、あるいは紙面の荒れ方ということを一応やってみたいと、しかもだいたい我々がやったのは普通の大学ノートでやっておるんですから、大学ノートでやったのと、いわゆるずばり本件に直接関係がある紙質と違う、脅迫状と違うものですから、で、書いて見たらどういう差が出て来るかということをやったんです。対照実験と申しますが」

                                            *

    昭和四十七年八月二日     東京高等裁判所第四刑事部

                                                     裁判所速記官  重信義子