『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
被害者宅に届けられた脅迫状。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。
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【公判調書3423丁〜】
「第六十三回公判調書(供述)」
証人=秋谷七郎(七十五歳・昭和大学薬学部長兼教授、東京大学名誉教授)
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橋本弁護人=「その先生の検査の結果、先生のご経験からしてあの万年筆の摩耗度と言いましょうか、使用頻度と言いましょうか、ということは何かお分かりになりますか」
証人=「それは全然分かりません」
橋本弁護人=「概括的に言いますとどうでしょうか、使い始めとか、非常によく使い込んでいる感じという表現では」
証人=「これは私ある程度主観が入りますから申し上げにくいです。何らかの科学的なデータが出ないということには私、感じのようなことではちょっと申し上げかねます」
橋本弁護人=「非常に堅いイリジュームなどを万年筆のペン先に使われるそうですが、しかし、万年筆を長く使っておりますと、やはりその部分も摩耗していくことは間違いないんでございましょうか」
証人=「これは毎日毎日たくさん書いた距離にもよるわけですけれども、五年くらいではかなり使っておりましても摩耗したものを計るだけの減り方はいたしません。わざわざ擦ったりすれば減りましょうが」
橋本弁護人=「摩耗度を科学的に検査する方法は今のところ見当たらないということですか」
証人=「ございません」
橋本弁護人=「それからボールペンをこの鑑定では先生は検査をなさっておりますね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「そのボールペンに何か特徴は発見出来ましたか」
証人=「出来ません。やはり同じメーカーの物は買ったんですけれども他のあれと比べて見て別に特色はございませんでした」
橋本弁護人=「そうしますと、先生の鑑定書(補遺)の主文の一の但し書き、『但し、一応考えられることは何れもペン先の腰の強さと、ペン先のペンポイントの太さとが、検体ペンのそれと同じくらいのものであったと推定する』とあります先生の結論というのは、今の先生のご発言からすると科学的に鑑定出来た結論ではない」
証人=「ええ、ないです。ただ感じを、こういうような表現をしたわけです」
橋本弁護人=「先生の鑑定書は、鑑定書と鑑定書(補遺)という二つの部分に分かれて作成されていますね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「これには何か理由が」
証人=「これは理由があるわけでして、あの当時この本体に注意して、封筒のほうのことを少しやり足らないということで、したがってこの部分をもう少しやって見ようということでやったわけです」
橋本弁護人=「そうしますと、鑑定書と題されたほうは、昭和四十七年一月二十六日という日付が終わりに入っておりますね」
証人=「左様ですね、前文が一月二十六日で、そのあと引き続きやったものですから」
橋本弁護人=「そして先生のお名前が書いてございまして、捺印がございますね」
証人=「はい、そうです」
橋本弁護人=「それから黒岩先生のお名前が書かれていますが、こちらに捺印がないようですが」
証人=「これは責任者じゃございませんので、私がやるのを手伝ったということです。その他、たくさんいるわけですけれども、あくまでも責任は我にあり、ということです」
橋本弁護人=「そうしますと、この鑑定書は昭和四十七年一月二十六日までに作成をして、その頃裁判所に提出されたものでございますか」
証人=「はい」
橋本弁護人=「それから、鑑定書(補遺)のほうは昭和四十七年四月十日の日付が入っておりますが、これはやはりこの頃作成されて提出されたものと」
証人=「はい、そうです」
(続く)