アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1093

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

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【公判調書3386丁〜】

                    「第六十二回公判調書(供述)」

証人=野本武一(六十歳:団体役員=部落解放同盟中央執行委員、同和対策審議会専門委員、埼玉県社会福祉審議会委員)

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山上弁護人=「この石川くんの性格というのは、いわゆる差別をされた人たちの特徴と言いますか、そういうようなものとして意外と義理堅いと言いますかね、心にもないことを約束した以上は守るというような気風がありませんか」

証人=「部落の人は、いつ如何なる場合でも自分の取った行動には責任を持ちます。したがって全国共通な感情というものはやはり差別が原因でありましょうが、結び付くと共通感情というものを持っておりますから、やはり義理堅い。これはやはり差別された人同士が結び付いてきた今日までの社会の実態と言いましょうか、そういう関係で非常に弁護士の先生が仰る通り、義理堅い考え方の中に私は生活していると、で、石川くんの場合でも、そのことがはっきり言えると思うわけです。彼は独房の中に入れられても面会人その他、文書に対しては一人一人丁寧に返事を書かなければ気が済まんというような、全くそういう点ではすばらしい義理堅い人物だということが言えると思います」

山上弁護人=「そういう差別されたもの同士の中で育つ一つの心理状態ですね、そういうものがその十年で出してやるということで、心にもなく石川くんが自白をした、そういう、まあ男の約束と言いますかね、そういうものを心ならずも守り続けた態度が一審の自白維持の問題であり、それは部落差別という問題から捉えなければその気持ちは分からんと、こういうようなご証言ですか」

証人=「私はやはり部落差別がなぜ今日残されているのか、差別がなぜ残っているのか、そういう点が明らかにされないと、狭山事件の本質というものの究明はあり得ないと思います。したがって単なる殺人事件、死体遺棄強姦、こういうことだけに裁判が集中されるならば、必ず石川くんが犯人として死刑の判決を受けるでありましょう。私はそういうことでなく、石川くんの生い立ち、裁判官がはっきりその判決文の中でも言われておりますように、判決文そのものが私は差別の判決文と考えております。そういう立場に立って考えるならば、なぜ石川くんが教育の機会均等を奪われた、就職の機会均等を奪われたのか、部落に生まれたもう一人の別件逮捕によって逮捕された東島明の生い立ち、あるいは石田一義の生い立ちというものが克明に究明されて、その中でそれでは犯罪とどう結び付くのか、こういう点が明らかに究明されない限り、私はこの裁判というものが差別裁判であるということを言わざるを得ないわけです」

山上弁護人=「今、裁判所のほうに向かって強姦、殺人という点だけ調べれば被告人は死刑の判決を受けるだろうと、こういうご証言でしたが、これは有罪であるという意味じゃないんですね」

証人=「そうじゃないです」

山上弁護人=「そういう風な表面的に見る限りは、この事件の実態は捉えられないんだと、こういう主張ですね」

証人=「はい、そうです」

(続く)

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1970年5月、部落解放同盟による狭山差別裁判取り消しを掲げた部落解放国民大行動が取り組まれた。彼等の基本的着衣は写真の通りであり、厳(いかめ)しいと言ったら失礼か。頭には鉢巻を巻き、腕には腕章、その腰には拡声器を吊るし、足元は安全靴に脚絆(ゲートル)という物々しい風体である。こういった団体の圧力を司法側はどう捉えたであろうか。