『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
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【公判調書3366丁〜】
「電話聴取書」
通話年月日 昭和四十七年六月十七日
時 分 午前十一時〇分
事 件 番 号 昭和三十九年(う)第八六一号
被 告 人 名 被告人 一夫こと 石川一雄
通話の相手方 高村 巌(代人 妻)
官 氏 名 印 裁判所書記官 張替貫一
要 旨 さきに御連絡いたしました主人の病状についてですが、主人は現在も頭痛がひどく本日午後一時までに証人として出頭することはできない状況でありますので、本日の公判期日には出頭できませんから、よろしくお願いいたします、右、本人の申出をお伝えいたします。
以上
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【公判調書3367丁〜】
「第六十二回公判調書(手続き)」
○証人=高村巌 不出頭につき尋問延期。尋問期日は追って決定する。
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【公判調書3369丁〜】
「第六十二回公判調書(供述)」
証人=野本武一(六十歳:団体役員=部落解放同盟中央執行委員、同和対策審議会専門委員、埼玉県社会福祉審議会委員)
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(証人は、予め裁判長の許可を得たうえ、自己のメモを参照しながら答えた)
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(裁判長は証人に証人持参のメモを見ながら証言することを許可した)
山上弁護人=「あなたは埼玉県で生まれて、現在に至ったのですか」
証人=「埼玉県で生まれて現在埼玉県に住んでおります」
山上弁護人=「本籍は」
証人=「本籍は現住所と同じです」
山上弁護人=「部落解放同盟の、今、中央のほうの役員をされておられるということですが、解放運動の中でのあなたの略歴を簡略に述べて下さい」
証人=「十二才の時、水平社の運動に参加致しました。以来、今日まで一貫して日本における身分制度による差別を撤廃するために運動を続けてきております」
山上弁護人=「その後、解放運動の中で、現在言う部落解放同盟の組織について少し説明して頂けませんか」
証人=「同盟の組織は全国六千と言われておりますので、その地区を中心として支部が結成されております。従って支部をまとめたものがいわゆる埼玉で申しますならば、埼玉県連合会、その上に関東ブロック協議会という連絡機関がございます。これは連絡をつけるために組織されているわけでありますが、全国的には関東ブロック、東海ブロック、近畿ブロック、中国ブロック、四国ブロックという組織、その上に中央本部があります。全国単一組織であります」
山上弁護人=「あなたはその中央本部の執行委員をなさっていらっしゃるんですね」
証人=「中央執行委員を兼ね、関東ブロックの議長と同時に、埼玉県と東京都連の両方の委員長を致しております」
山上弁護人=「埼玉県連の委員長はいつ、ご就任になったんですか」
証人=「県連の委員長は戦後書記長として七箇年携わりました。以来ずっと委員長を続けております」
山上弁護人=「中執になられたのは」
証人=「戦後、部落解放同盟が全国水平社名称を変えて、部落解放全国委員会となったのが二十一年の二月十九日であります。で、それ以後、部落解放同盟の前身であります全国委員会の常任全国委員、さらに東京に事務所が三年ばかり移されたことがありますので中央本部の事務局長を兼ねて現在までに至っております」
山上弁護人=「先ほど全国水平社というお言葉が出ましたが、これが結成された過程を簡単に」
証人=「一つは徳川三百年間にわたる封建的な身分制度というものが日本の部落を作り出しました。従ってその部落差別というものは根強く、徳川三百年間の国民を分裂させる一つの手段として作られたその身分制度、最下層の身分として差別されて来たわけであります。私どもの先輩は大正十一年三月三日にその差別から解放されるために、全国水平社を創立いたしました。ちょうど今年が五十年目にあたります」
(続く)