アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1082

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

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【公判調書3362丁〜】

「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日

証人=中田健治(三十四歳・農業)

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山崎検事=「前回も、先ほど弁護士さんが言うように公判の時の証言でもそれと同じように、あれは善枝の持っていた物だということが、言っているんですね」

証人=「思い出せません」

山崎検事=「現在の記憶ではあなたどうなんですか」

証人=「四つ折りだかにして前の自転車の買い物かごなど付けている一番下に入っていたようなのは記憶しているんですが、それがはっきり図案を開いて記憶していたという状態でもありませんので」

山崎検事=「そういう、被害届を出したりする時にあなた一人だけじゃなくて、お父さんとか登美恵さんとか皆で、いったい善枝はどんな物を持っていただろうかというような相談はするんでしょう」

証人=「ほとんど名指しで呼出しされて、登美恵は登美恵、おれはおれで警察官に聞かれているような状態で、相談などあんまりあの当時は出来る状態ではありませんでした」

山崎検事=「現在、上申書を書いたその内容についてはどうですか」

証人=「当時このように判をついてる以上は、言ったのに間違いないと思います」

山崎検事=「それから登美恵さんの墓は今、どこにあるんですか」

証人=「家の畑の一部にあります」

山崎検事=「これは山下とは全然縁を切っておるという形なんですか」

証人=「はい」

山崎検事=「それから、登美恵さんが自殺する前ですね、あれが七月頃なんだが、それまでの本人の体の具合というのはどうだったんですか」

証人=「あの自殺をする二、三日前だかから家で食事の支度をする程度で、畑には出てはいませんでした」

山崎検事=「診療所に通ったということはあったんじゃないんですか」

証人=「ああ、そう、診療所に通ったかも知れないです」

山崎検事=「それはいつ頃からでしょうか」

証人=「さあ、記憶ないんですが」

山崎検事=「それから死んだ時の状態ですが、先ほどどうも最後の死んだ時の格好がどうだかよく分からないという話でしたが、布団の上でどうなっていたんですか。ただ寝るように死んでいたという格好ですか」

証人=「そうです。私の見た時には寝るような状態でした」

山崎検事=「要するに寝たまま死んでいたということでしょう」

証人=「そうです」

山崎検事=「一番最初に発見した、あなたの弟が発見した時はどうだったんですか。違う状態だったんですか、その状態だったんですか」

証人=「さあ、そこまで聞いてないんですが」

山崎検事=「どこか別の所で死んだのを運んできて移して、そこに寝かしたのか、そのままの状態だったのか」

証人=「そのままの状態だったと思います。細かいところまではちょっと・・・・・・」

山崎検事=「布団の上でそのまま死んでいたのか、どこか別の所で死んでいたのか、それを持ってきたのか」

証人=「そのままの状態です」

山崎検事=「先ほど、首吊りをしてたんじゃないのかとか、という、これは非常に違うんじゃないか、そういうことをはっきり証言してもらわなければ、どっちなんですか」

証人=「首吊りなどではありません」

山崎検事=「どういう状態だったんです」

証人=「布団の中で上向きになって、手を腹へこうやって置いた状態だったと思います」

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山上弁護人=「登美恵さんが、あなたが最後に見た姿はお茶碗を洗っている姿が、最後ですね、その日は」

証人=「はい」

山上弁護人=「それから登美恵が布団についたかどうかは知らんということですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「そうすると、喜代治さんが最初発見したのは布団に登美恵さんが寝ておったということを、喜代治さんからあなたは確かめていないんですか」

証人=「はい、そいつははっきり確かめた記憶はありません」

山上弁護人=「だから運んで布団に入れたのか、布団の中で死んだのかも確かめてないということでしょう」

証人=「はい」

山上弁護人=「それから私が前回お尋ねした時には、五月一日を基準にすれば、それまでは風呂敷にはどういう模様がついていたかどうかは知らないとはっきり言ってますね、風呂敷を持っておったかどうかはともかくとして、その風呂敷にどういう模様があったということは五月一日以後に模様を初めて知ったんですね」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「それであなたは五月一日に善枝さんが亡くなられて、物が発見されたのが四日ですからね、こういう模様の風呂敷を持っておるということを知ったのは四日が初めてだったわけでしょう。風呂敷の模様のことですよ」

証人=「はい」

山上弁護人=「したがって、これは善枝の物かどうか分かりませんという答えになったんですね」

証人=「はい、一番初め答えた時はそうです」

山上弁護人=「善枝さんの物じゃないと」

証人=「はい」

山上弁護人=「そういう寿の模様の字を書いたのは、四日が初めてですね」

証人=「はい、その物についてはそうです」

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裁判長=「さっき、妹さん登美恵さんが死んだという知らせで、お父さんと二人で畑に出ていたのを一緒に帰って来たんでしょう」

証人=「三人です」

裁判長=「誰」

証人=「二人が畑に行ってて喜代治が迎えに来ましたので」

裁判長=「父親は少し早く家に着いたようなことも言ったようだったが」

証人=「ほとんど一緒だったと思います」

裁判長=「そうするとさっき言ったように、まあ奥の一間に、布団の中に眠るような格好で手をお腹に合わせて亡くなっていたというようなことを言ったが、あなたより先に帰ったお父さんが家に帰ったら、本当に死んでいた所から連れて来て家に寝せたというようなことはあり得ないんだね」

証人=「それは、確かめてはありませんが」

裁判長=「ほとんど一緒に帰って来た」

証人=「はい」

裁判長=「弟はいくつくらいだったかな」

証人=「夜学の四年です」

裁判長=「弟がそういうことをするような可能性があるの」

証人=「ほとんどないと思います」

裁判長=「ほかの家人は誰かいたのかな」

証人=「喜代治だけです。登美恵と」

                                                                  (以上  沢田怜子)

東京高等裁判所第四刑事部         裁判所速記官 重信義子

                                                       裁判所速記官 沢田怜子