『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
中田家見取図。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。
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【公判調書3354丁〜】
「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日
証人=中田健治(三十四歳・農業)
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佐々木弁護人=「なお一審のご証言によりますと、『武志は僕の一番小さい弟なんですが・・・』伝々として『・・・意地悪でもしたのかなと思って、武志また悪さでもしたのかなとひょっとその時・・・・・・思った』というご証言になっておりますね。一審ではそういう風にご証言になったことは間違いないと」
証人=「はい、言ってるとすれば間違いありません」
佐々木弁護人=「そういう風に思ったんですか、あなたが」
証人=「ええ、そいつは言ってるとすれば思ったんだろうと思います」
佐々木弁護人=「また悪さでもしたというのは、武志は前にもそういった悪さをしたことがあるんですか」
証人=「自分が帰って来た時などは、こういうドアの所になど、物を上に挟んでおいたりなどして、まあ自分たちも学校で先生などにそういう悪さをしたけれども、そういうことをされたこともありましたから」
佐々木弁護人=「武志さんはそういったようなことを前にしたことがあるんですか」
証人=「そういったことというのは家に脅迫状などをという意味ですか」
佐々木弁護人=「そうです」
証人=「そういうことはしたことありません」
佐々木弁護人=「それじゃすぐそこに脅迫状が入っているのを見て、また悪さでもしたのか、意地悪でもしたのかという風に思ったと、そういう風に武志のこととあなたが結び付けたことの、その辺が、ちょっと何か飲み込みにくいんですけれども、前にそういうことはないんでしょう、武志には」
証人=「ただドアなどに挟んで、ドアを開けると物が落ちるような、そういうことはしたことはあります」
佐々木弁護人=「いつですか」
証人=「いつって、記憶ないんですが」
佐々木弁護人=「何回ですか」
証人=「一度はあります、完全に、ほかにははっきりした記憶はないんですが」
佐々木弁護人=「どこでですか、場所は」
証人=「入口です」
佐々木弁護人=「同じような場所ですか」
証人=「同じガラス戸で」
佐々木弁護人=「事件からどれくらい前ですか、半年とか、一年とか、そういうことはどうですか」
証人=「あの当時質問されたら分かったと思うんですが、今だとちょっと分からないんですが」
佐々木弁護人=「しかし、あることはあるんですか」
証人=「ええ。その、物が落ちるのはやったことあります。今でも自分の子供たちにそういうことをします」
佐々木弁護人=「武志さんのことを聞いているんです」
証人=「はい」
佐々木弁護人=「一回ですか、武志さんがそういうことをしたのは」
証人=「はい、自分には」
佐々木弁護人=「どういういたずらだったんですか」
証人=「何かを障子のところに挟んで、開けるとぱたんと落ちるようなあれです。ゴムまりだったと思うんですがね、空気を抜いたやつを挟んで」
佐々木弁護人=「そうなら、なお武志に取れなどと言うのはおかしいんじゃないですか、いたずらした本人ですから、武志は。食事している本人に取れなどと言うのはおかしいんじゃないですか」証人=「何となくです」
佐々木弁護人=「それでは松本弁護人がちょっと尋ねましたが、あなたが五月四日の、一番早い時点で、大野喜平という人の実況見分調書に書いてあるんですけれども、ビニールの風呂敷を被害者の兄に示したところ、被害者のものじゃないことが判明したので本件の犯行に使用した疑いがあるとして領置したということになっているのです。あなたは、棍棒やビニール風呂敷を示された時に、知りませんと、被害者のものではないという風にお答えになったことは間違いない、警察がこういうことについて嘘を書くことはないと思いますが、あなたははっきりしないと仰いましたが、それはご記憶ありませんか、大事な問題ですよ、これは」
証人=「記憶ありません」
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橋本弁護人=「あなたが庭先で見つけたという紙切れのことについてお聞きします。あなたは一審の第二回公判であなたの証言は、あなたはその紙切れは封筒の切れ端のように思うと言われましたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「今でもそう、その考えに変わりありませんか」
証人=「かも知れないからというので、警察の方にお渡ししたように思っております」
橋本弁護人=「そうすると、あなたが受け取って手に取って見た脅迫状が入っている封筒がありましたね、その封筒と紙切れと突き合わせてみたことはありますか」
証人=「警察へ脅迫状も、もらった晩に渡してしまってありまして、そこまでしたことはありません」
橋本弁護人=「あなたの判断では脅迫状の入っていた封筒は指で破いたようになっておるということでしたね」
証人=「紙切れの方はそうだったと思ってます。ちょっと今、記憶が・・・・・・」
橋本弁護人=「一審の第二回公判では、封筒は千切られてあって、鋏で切ったのではなくて指で大きく引き裂いたようになっていたという意味のことをあなたは仰ってますが」
証人=「その通りだと思います」
橋本弁護人=「ではそうすると、封筒の切れ端のように思われるものも、やはり指で破いたような感じですか」
証人=「ええ、爪の大きさくらいだったように記憶しておるんですが、やはり指で破いた状態だったと思います」
橋本弁護人=「その切れ端の方にインクが滲んでおったという風にやはり一審で言っておるんですが、文字が記載してあったんですか」
証人=「いや文字はなかったように思います」
橋本弁護人=「どんなものが書いてあったんですか」
証人=「うっすらと滲み・・・・・・・・・滲むような状態だったように思ってます」
橋本弁護人=「そうすると、字が書いてあったかどうか分からない」
証人=「字は書いてなかったように思います」
橋本弁護人=「インクがこぼれ落ちたようなものが、滲んででもいたということですか」
証人=「そうですね、そういった状態だったと思います」
橋本弁護人=「そのインクというのは万年筆のインク、つけペンに使うインクとか、いろいろありますが、そういった感じですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「ボールペンのインクとかもありますね、どっちのインクだったかは」
証人=「つけペンや万年筆に使うインクの薄いような状態でした」
橋本弁護人=「色は」
証人=「色はブルーです」
(続く)