『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
事件現場近くの芋穴から発見されたビニール風呂敷。
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【公判調書3347丁〜】
「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日
証人=中田健治(三十四歳・農業)
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松本弁護人=「(東京高等裁判所昭和41年〈押〉第187号の29ビニール風呂敷を示す)こういう風呂敷はこの事件になってからはご記憶ありますね」
証人=「はい」
松本弁護人=「前にもご証言になっておることなんですけれども、この風呂敷は結局、証人としては善枝さんが殺害される以前には気が付かなかった風呂敷なんですか」
証人=「ええ、これは新築だとか、お祝いだとか、ご祝儀だとかに頂くもので、あんまり気には留めていないものでした」
松本弁護人=「気に留めているかどうかということじゃなくて、証人ご自身が、そういう風呂敷が家にあり、善枝が携帯しておるというようなことを証人自身は知ってなかったという風な、そういう風呂敷なんですか」
証人=「はい」
松本弁護人=「死体が発見されましたね」
証人=「はい」
松本弁護人=「付近の芋穴の中からそれが出て来たんですけれども、それが出て来るまでは証人は、あるいは芋穴から発見された際にも証人は、それが中田家にあるものか、善枝が持っておったものだということはお気付きにならなかったようなものだったわけですね」
証人=「はい」
松本弁護人=「証人が三十八年五月四日に死体発見現場においでになって、そこでその風呂敷を示されて確認を求められた時に、それは善枝のものでないように思う、というようなことをお答えになった記憶はないですか。実況見分調書にはそういうような記載があるんですが」
証人=「・・・・・・記憶ありません」
松本弁護人=「まだその時には、その風呂敷についてあなたは知らなかったわけですね。そういう問答をしたかどうかはご記憶ないかも知れませんが、繰返して聞いておりますように、それを善枝ちゃんが持っておったということについて証人は知らなかったということでしょう」
証人=「はい」
松本弁護人=「ところがどういう理由でその風呂敷を善枝が持っていたんだというようなことをのちほど証言されるようになったんでしょうか。原審第二回公判などでそのような証言をされておるのでお伺いするんですが」
証人=「持っていたとすれば雨よけに、鞄をかくすために持っていたのだと」
松本弁護人=「そのビニール風呂敷、目の前にある証拠物になっておる、すなわち芋穴から発見されたビニール風呂敷が、善枝が所持しておったものだ、それに間違いないということを証人は証言されておるんですが、これは先ほどのを訂正いたしまして、第七回公判、原審の、そのご証言の中に出ておるんですが、なぜ当初、善枝のものであるということが分からなかったのに、この第七回公判に出た時には間違いないと仰るようになったか、その理由を仰って頂きたいのですが」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
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裁判長=「第七回の公判に現れている文句を読んで下さいませんか、どういう問いになっているか」
松本弁護人=「それでは『同符号二九のビニール風呂敷を示す』『この風呂敷はどうですか』
(証人)『そうです、私、あの開いてみたことはなかったんですが、折られていた時ですが、間違いなくこういった…』
『こういったものですか』
(証人)『ええ、そうです。色も間違いないように記憶しております』
と、こういう風に言って、それが被害者のものであるということを確認されておるんですがね、だからなぜそういう風にあなたの供述が変わって来たんですかと」
裁判長=「もう少し関係の部分があるんじゃないですか。ビニールの風呂敷を自転車に付いているかごの中に入れていたことは知っているということで、今そちらで言われたように知っていると、このもの自体に間違いないというように断言したような供述ですかねえ」
松本弁護人=「それはニュアンスの差だと思いますが、私の読んだ限りではこのビニールの風呂敷を示されての質問ですので」
裁判長=「『間違いなくこういった…』とそこで切れておりますからね」
松本弁護人=「いや、そのあと『こういったものですか』『ええ、そうです』と」
裁判長=「だから、こういったものですと、これだということをはっきり言った趣旨だとあなたはご理解になって質問しておるんですね」
松本弁護人=「はい」
裁判長=「じゃそういう風に伺います」
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松本弁護人=「どうでしょうか」
証人=「はい、どうして言ったか、特別な理由もありません」
(続く)