『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
被害者が使用していた自転車はこの物置に返されていた。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。
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【公判調書3343丁〜】
「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日
証人=中田健治(三十四歳・農業)
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松本弁護人=「証人は、前の叔父さんのところに行って留守番のことを頼まれたんでしたね」
証人=「はい」
松本弁護人=「ところが証人のお宅には、お父さんとあなたが出られても、喜代治さんなり登美恵さんなり二十(歳)以上の方が二、三人もおられるわけでしょう、どういう意味で叔父さんのところに連絡に行かれたわけでしょうか」
証人=「大概なんでも分家にはそういうことを話していたから」
松本弁護人=「派出所はどちらにあるんでしょうか。母屋から道路に出られて、右に行くのか左に行くのか、どちらですか」
証人=「両方、横へ出て裏側の部落へ行かないとならないんです。北側になるわけです」
松本弁護人=「入間川駅の反対の方向ですか」
証人=「説明します、図面を書いて」
松本弁護人=「いや大掴みで言って、入曾とかいう方向とは符号しないんですね」
証人=「言葉で言うと揚げ足取りになりますから図面を書いて下さい、説明しますから」
松本弁護人=「権現橋辺りは通らなくても行けますか」
証人=「通っても通らなくても行けます」
松本弁護人=「その時は通りましたか」
証人=「あの時は通って行ったと思います」
松本弁護人=「車に乗って権現橋までは非常に短時間で行けますか」
証人=「・・・・・・・・・」
松本弁護人=「何百メーターくらいありますか」
証人=「あの時通って行ったのは向かいのほうだと、五、六分だと思います」
松本弁護人=「車で五、六分もかかるんですか」
証人=「ええ、五分くらいはかかると思います」
松本弁護人=「その間に、別に誰にも出合いませんでしたか」
証人=「ええ、出合った記憶ありません」
松本弁護人=「権現橋のすぐ横に豚屋さんがありますね」
証人=「はい」
松本弁護人=「その豚屋さんのところまでは車は行ってないんですか」
証人=「ですから、図面を書いて下さい、説明しますから」
松本弁護人=「いやいや記憶で結構ですから、豚屋さんの前の道は通ってないと」
証人=「自転車ではあそこ通りますけれども車だったら、通る気だったら通れますが・・・・・・」
松本弁護人=「その時です」
証人=「その時は通っては行かなかったと思います」
松本弁護人=「別にその付近に騒がしい状況とか、犬が吠えるというようなことはありませんでしたね」
証人=「はい、記憶ありません」
松本弁護人=「それから脅迫状を発見した後でお父さんが出られて見ると、車の横に自転車があったというんですが、それはちょうど、あなたが運転席に乗っておられますね、その運転席との関係で言うと」
証人=「反対側です」
松本弁護人=「あなたは右側におられるんですか。つまり前方に向かってあなたは運転台から下に降りる時には車の右側から降りるんですか」
証人=「ハンドルが右ですから右に降ります」
松本弁護人=「その自転車もまあ、その夜にご覧になったというんですが、自転車には座布団がサドルに付いていたんですか」
証人=「さあ、今となっては記憶ありません」
松本弁護人=「やはりこれも同じく前回の、原審ですが、第二回公判の供述の中に『サドルの上に座布団を置いてあったわけですか』『はい』と、『それをととってある(原文ママ)紐が少し長めに下へ下がってたわけですか』『はい』とありますが、座布団があったんじゃないですか」
証人=「・・・・・・・・・」
松本弁護人=「善枝さんは普段サドルの上に座布団を載せていたんでは」
証人=「ええ、乗って出る時はほとんどそういう状態で乗って出ました」
松本弁護人=「座布団がその当時あったんでしょう、だから、そういう風に原審では供述されているんでしょう」
証人=「だったと思います」
松本弁護人=「ところがですね、その後、その座布団はどうされたんでしょうか。ご記憶ございませんか」
証人=「ええ、記憶ありません」
松本弁護人=「あなたが派出所に行かれて、そして警察はすぐにあなたの家に来たわけですね」
証人=「すぐではなかったけど派出所に行って、派出所から警察へ父と私と駐在さんと行って調書を取り始めたんですが、家へ来てくれました」
松本弁護人=「その日は何人くらい刑事が来ました」
証人=「三人か四人だと思います」
松本弁護人=「何か調べておりましたか」
証人=「自転車などは見ていました」
松本弁護人=「自転車はその晩はどうなったんでしょう」
証人=「納屋の明かりを点けて警察が来るまでは置かれたままにしておきまして、警察が来てから警察の方が中にさらって入れました。中へ」
松本弁護人=「移動さした」
証人=「はい、納屋の戸がある内側のほうですね」
松本弁護人=「警察の押収はなかったんですね」
証人=「はい」
(続く)