アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1072

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

事件当時撮影された中田家の土間。ガラス戸の中央下部に脅迫状が差込まれていた(白色の所)。手前右に見えるのは家族が食事をとっていた座敷。証人の健治氏はこの座敷横の土間に置かれていた木製長椅子に座り食事をとったとされる。

弁護人らが、この時の状況について繰返し健治氏へ説明を求める理由は、私が思うに次のとおりである。

写真で明らかなように、健治氏が食事をとった位置と差込まれた脅迫状の位置が非常に近いこと。近いがゆえに、これは脅迫状が差込まれた時に、それに気付かなかったかどうかという問題。

脅迫状が差込まれたガラス戸、その下から二段目は透明なガラスとなっており外が透けて見える。誰かが近付けばその姿は目撃されよう。つまりこれも、そのガラス戸にもっとも近い位置で食事をとった健治氏は気付かなかったのかと、こう弁護人らは考えたのではないだろうか。

もっとも、こういった犯罪を行なう者は狡猾な上に慎重さも兼ね備えており(事実、危険を感じた犯人は身代金には手を出さなかった)、脅迫する対象に気付かれるような動きは慎むことは当然であるが。

(写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

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【公判調書3338丁〜】

「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日

証人=中田健治(三十四歳・農業)

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松本弁護人=「この日証人が帰ってみえて、お父さんの供述によるとあなたが車の窓を開けてお父さんと問答なさったようですが、それから車を降りて来られて表のガラス戸からお入りになって食事が始まったと、こういうことですね」

証人=「はい」

松本弁護人=「証人は土間で食事をなさったということですね」

証人=「そうです」

松本弁護人=「前回のご証言では土間に長椅子がございまして、その一番南の端付近に座って西南の方向を向いて、すなわち板の間の方向を向いて食事をしたというようなご証言があったんですが」

証人=「はい」

松本弁護人=「間違いございませんか」

証人=「はい、間違いないです」

松本弁護人=「ただ原審の現場検証、これは昭和三十八年九月二十三日か二十四日であろうと思いますが、その時にはこの証人がお座りになっておった場所は木製長椅子のむしろ北側端に近い所であったというようなご指摘があるように思うんですが、どちらが正しいんですか」

証人=「南側です」

松本弁護人=「つまり入り口に近いほうですね」

証人=「そうです」

松本弁護人=「そうすると例の脅迫状が差し入れてあったという入り口と、証人が座っておられた椅子とはどのくらい距離があるんでしょうか」

証人=「二間か二間半くらいだったですね」

松本弁護人=「(原審記録第一冊、三十八年九月二十三日・二十四日施行の検証調書添付写真一六一丁及び一六五丁の図面を示す)今の見取図〈一〉並びに一六一丁の写真その指示部分と両方ですが、写真に対する指示部分によりますと、立会人中田健治の指示説明とありまして、『発見した時の私は、土間のこの辺〈ソ点〉にいました』と書いてあります。そして見取図によりますと、〈ソ点〉というのは木製長椅子の、まあ真ん中に近い付近のような感じがするんですが、大体、ここに書いてある位置ですか」

証人=「この位置のちょっと下っ側に行った辺りか、その辺です。ここが二間と一間半で、畳三枚とちょっと隙間がまだあって、大体二間くらいの状態だったと思います」

松本弁護人=「前回証人は、自分が食事をしておる時に家族はどこに座っておったかという点についてお答えになっていますが、証人のご記憶でもう一度そのあたりを繰返して聞きますが、ほかの家族の方は結局どこにおられたことになるんですか」

証人=「土間と板の間分です」

松本弁護人=「その点は証人の従来からのご証言によりますと、いずれも例えば先ほどの原審第二回公判におけるご証言では『土間で食事についたのは僕だけだったと記憶しております、それから父に武志に喜代治は上にあがっておりました』とあって、少し変わってきておるようですが、もう一度記憶を蘇らして頂けませんか」

証人=「土間に、私と誰か居たと思っております。古いことですからね」

松本弁護人=「しかし、その当時の証言というのはその当時の記憶に基づいて証言されたんでしょう。嘘を言ったわけじゃないでしょう。土間におられたのはあなたお一人だったかも知れませんね」

証人=「はい」

松本弁護人=「それからちょっと疑問に思いますのは、前回も弁護人から聞かれておりますけれども、理由がね、なぜ土間で食事をされておったのか、何か理由があると思いますが、普通であれば野良仕事は終わっておるし、全部片付いておるんですから、上にあがって皆さんと一緒に座って食事をされるのが普通だろうと感じるんですが、理由を前回ご証言になっておらんので改めて聞くんですが、何でその時はそういう土間で食事をおとりになったんですか」

証人=「特別な理由はありません」

松本弁護人=「理由は忘れたと言うんですか」

証人=「特別な理由があれば覚えていると思うんですが、記憶ありませんです」

松本弁護人=「証人はどういう時に、そういうほかの家族と違う所で食事をされることがあるんですか」

証人=「いや、いつも大体そういう状態だったと思うんです。あの当時は」

松本弁護人=「それは昼とか、作業中の場合じゃないんですか、夜はくつろいで上にあがって皆んなと一緒に食事されるんじゃないんですか、普通には」

証人=「いえ、そうでもないです」

松本弁護人=「証人は別に体は濡れてはおらなかったんですか」

証人=「濡れてはいなかったと思います。葉物を洗った時くらいの、濡れたかどうかくらいのところで」

松本弁護人=「それじゃ納屋から母屋に来られる間は傘をささずにお入りになったんですか、あるいは傘をさしてか、善枝さんの傘を持って行かれたようなお父さんの供述があるんですが、わずかなところですが、走ってでも来られたんですか」

証人=「いや記憶ありません」

(続く)