アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1071

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である。

被害者の自転車。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。

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【公判調書3336丁〜】

「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日

証人=中田健治(三十四歳・農業)

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山上弁護人=「それから、あなたや善枝さんが当時使われていた自転車は、当時の時点で見ただけで古い自転車ですか、新しいなという感じのものでしたか」

証人=「未だにまだ使っております。当時は新しかったと思います」

山上弁護人=「内田幸吉は古い自転車だったと言っているんですが、感じは新しい自転車ですね」

証人=「ええ」

山上弁護人=「内田幸吉さんとはお付合いがありますか」

証人=「水道組合だけで別にお付合いはありません。ただ普通の近所付合いです」

山上弁護人=「この事件は五月一日に起きたわけですけれども、この内田幸吉さんとは五月一日を基準に考えて見た場合に、まあ毎日というわけじゃないけれども顔を合わすことはあるわけですか。事件が起きた後も顔を合わしましたか、内田さんとは」

証人=「いえ、その後はほとんど合わせておりません」

山上弁護人=「その事件の前には顔を合わすことはあったんですか」

証人=「特別にないです。ただ畑で姿を見合う程度です。いくわりか向こうの野道をいつも出入りしておりますから」

山上弁護人=「内田幸吉さんが証人のところに来られまして実はこういう思い当たることがあるんだと、善枝さんのことについてね、そういうことがありますか」

証人=「いや、別にそういう記憶ないんですが」

山上弁護人=「会えばあいさつをする程度ですか」

証人=「そうです。特別に話し込むというような間柄ではないです」

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松本弁護人=「五月一日当日、証人は六時四十分から五十分頃に自宅を車で出られて、入間川分校に行かれたんですか」

証人=「はい」

松本弁護人=「その時に誰にお会いになりましたか」

証人=「小使いさんのおばさんです」

松本弁護人=「どのくらいの年齢の方でしたか」

証人=「あの当時で五十才くらいには見えました。でも年は全然聞いておりません」

松本弁護人=「その当日は非常にどしゃ降りの雨だったということですが、証人が自宅にお帰りになった時間について、七時三十分だということを明確に仰っておったんですが、前回の法廷でお述べになっていることは少しそのあたりが記憶が薄れておるだろうと思うんですが、第一審の第二回公判のご証言では七時半に間違いなく記憶しておりますと、こう述べておられるんですが、これは前回、山上弁護人からもお尋ねがあったところなんですけれども、どういう風にしてこう時間を確かめられたんでしょうか」

証人=「食事をする時には目の前が時計になるんです。二間半か三間くらい先に時計がかかっているものだから、その時計の記憶と思っております」

松本弁護人=「この昭和三十八年五月九日の供述調書の中で、出迎えに行かれた時の状況について、時間を逐一明記して供述をされておるんですが、これを読む限りにおいてあなた自身が時計でも持っておられて確認されておったとしか読みようがないんですが、帰って家の時計を見たということですか」

証人=「そうです」

松本弁護人=「警察からはこの事件が起こりました後のその当日の行動、すなわち善枝さんを入間川分校に捜しに行かれたというようなことについて、詳細を問い質(ただ)されましたか」

証人=「特別に聞かれた記憶はありません」

松本弁護人=「この五月九日は、やはりそのことを中心にした調書になっておりましてね、証人自身がお書きになった図面、どのコースを通って行き戻りしたというようなご説明もあるんですが、そういうご記憶はありますか」

証人=「はい、別に記憶ありません」

松本弁護人=「あなたがどのコースを通って自宅を出て、また、戻って来たかというあなたの通られたコースについてのご質問はあったでしょう」

証人=「はい」

松本弁護人=「それから五月一日は善枝さんの第十六回目の誕生日だということでしたね」

証人=「はい」

松本弁護人=「この日は何か善枝さんの誕生祝いというようなことをされる予定はなかったんですか」

証人=「別になかったように記憶しておりますが」

松本弁護人=「ということは家中の方がそういうことについて忘れておったということなのか、善枝さんも自分の誕生日だということは気がついているけれども、殊更、誕生祝いというものはしなかったのか、どちらでございましょうか」

証人=「ただ登美恵が、明日は善枝の誕生日だから赤飯でも炊こうかということはありました」

松本弁護人=「証人のお宅ではあなたも含めて兄弟もおられますが、特に誕生祝いという風なものはされないご家庭ですか」

証人=「そうです」

松本弁護人=「それは何か理由がございますか」

証人=「いえ、別にないんですが、ただ忙しく過ぎてしまっているような状態だったように記憶しております」

(続く)