『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
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【公判調書3329丁〜】
「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日
証人=中田健治(三十四歳・農業)
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山上弁護人=「それから、前回のことにもちょっと関連しますが、あなたが車で善枝さんをお迎えに行かれて家に帰り着かれましたね」
証人=「はい」
山上弁護人=「その時にお庭に車を入れてその車の中からあなたがお父さんと会話をなさったような証言をだいぶ前にされたようですが、これはお父さんはどこにいらしたんでしょうかね」
証人=「あれをこの前の法廷から帰ってよく考えたんですがね、やっぱり思い出したんですが、雨戸を父が開けながらだか、玄関の入り口のガラス戸を開けながらだか、顔を出したのを記憶しております。ですから会話をしたかも知れません」
山上弁護人=「あなたは車の窓から顔を出したんですか」
証人=「ええ、バックする時には大概雨なんか降っている時には後ろが見えませんからガラスを開けてバックしたり何かしますから、恐らくその時に、いなかったとでも言ったのか、何かはっきりした記憶ないですが父が顔を出したのは思い出されます」
山上弁護人=「雨が相当強かったようですが、あなたが車の窓から顔を出して会話をなさったんですか、どういう状況でしょう、頭が濡れると思うんですが」
証人=「・・・・・・はっきりした記憶はありません」
山上弁護人=「お父さんが、まあ入り口のガラス戸かも知れんと、こういう証言ですが、そこに立ってあなたが来られるのを心配して待っておられたということなんでしょうか」
証人=「まあ、そうだったと思います」
山上弁護人=「当時お父さんがガラス戸の所まで出て、あなたのほうに顔を向けて何か会話をしなければいけないような何か心配になるような虫の知らせと言うか、そんなものはあったんですか、あなた自体は」
証人=「いや、別にそういうものはなかったと思うんですが」
山上弁護人=「それから前回、内田さんというところに善枝さんが無断外泊をしたことが中学の時にあったと、こういうご証言がありましたね、それは自分が東京へ行って、いなかったかも知れないけれどもそういうことがあったと、それは記憶ありますか」
証人=「ええ、登美恵からだか話を聞いたのは知っております」
山上弁護人=「で、あなたの一審の第七回公判の調書でしたかに"実は善枝は台風の時に友達のところに泊まったこともあるし、そこに泊まっているんじゃないかと私は言いました"と、こういう趣旨の証言がはっきりありますがね、あなたから仰ったんですか」
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裁判長=「ちょっと弁護人、それはどういう前提になっているんでしょうか」
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山上弁護人=「登美恵さんにその現場の時点で聞いて証人がそういう事実があるということを知ったのかということです。それはどうですか」
証人=「・・・・・・・・・私が言ったんだと思います」
山上弁護人=「善枝は友達の家に寄ってるかも知れんという具合にあなたは思ったというんですか」
証人=「ええ、帰ってからだか、そんなような気がしますが」
山上弁護人=「で、その内田さんという家に車で行って見ようという気は起こりませんでしたか」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
山上弁護人=「そんなに車で高等学校に行くほどご心配なら、ちょっと学校か友達にでも内田さんの所を聞いて行けば分かるだろうというような気持ちは思い付きませんでしたか」
証人=「そういうことを思ったかどうか、記憶ありません」
山上弁護人=「それから、あなたが見た善枝さんの性格は、まあ、お父さんも気丈な女だと言っておられるんですが、どういう風に思われますか」
証人=「私たち兄弟の中では一番はっきりした性格で、まあ」
山上弁護人=「気の強いほう」
証人=「ええ、そのような子でした」
山上弁護人=「農作業なんかでもてきぱきと力仕事も出来る、そういうお方ですか」
証人=「ええ、一緒にしたことはあまり記憶にないですが、まだ高校生になったばかりですから」
山上弁護人=「まあ、そういう性格の善枝さんが顔を見知らぬ男に自転車を通学中に止められて、ちょっとついて来いということですたすたと山の中まで行くような妹だったかどうか、お兄さんとしてどうお考えですか」
証人=「・・・・・・ついて行くような女じゃないと思っております」
(続く)
これは事件後に撮影された、被害者宅の敷地内にある物置の写真であるが、そこには貴重な情報が見て取れる。車は日野自動車製「ブリスカ」であり、その横に善枝さんの自転車、その側に立っている方は姉の中田登美恵さんである。