『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
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【公判調書3327丁〜】
「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日
証人=中田健治(三十四歳・農業)
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(丸京青果の荷札について尋問は続く)
山上弁護人=「前回の調書、これは記憶違いもございますがね、去年というような風にも読み取れますがね」
証人=「そうですか」
山上弁護人=「どうですか、はっきりしないんですか、去年ですか」
証人=「はい、去年のように思えるし、年度や日にちなどははっきり記憶ありません」
山上弁護人=「来られた警官はどこの方ですか」
証人=「それははっきり聞いてもおりませんが、狭山警察から電話があってお聞きしたいからということだったんです」
山上弁護人=「そして健治さんが警察までお出かけになったんですか」
証人=「いえ、向こうから出向いて」
山上弁護人=「で、口頭でのやり取りだけだったんですか、何か調書を取られるとか」
証人=「ええ、調書を取って、それと同じ荷札も持って行かれました」
山上弁護人=「そうしますと証人のご記憶では善枝さんの事件に関係あることで来られたんだと、こういう趣旨で警察では説明なさったんですか」
証人=「・・・・・・そうですね」
山上弁護人=「何分くらいですか」
証人=「十五分かそこらじゃなかったかと思うんですが」
山上弁護人=「どういうことで、何が問題になってわざわざ警察の方が来られたのかということはあなたはお尋ねになられましたか」
証人=「いえ、特別に聞いてはみませんでした。私が畑へ行っていた時だと思うんですが、父が最初応対していて、それで私がその間に入ってお話したと思っております」
山上弁護人=「当時朝日新聞に、死体につけてある縄に丸京青果の荷札が付いておるという記事が載ったことがありますが、お読みになった記憶はありますか」
証人=「いえ、別にありません」
山上弁護人=「それから、善枝さんは五月一日の朝の食事は証人と一緒になさいましたか、家族の方とご一緒ですか」
証人=「・・・・・・ええ、一緒だったと思います」
山上弁護人=「この時に赤飯を食べられたようですね」
証人=「はい」
山上弁護人=「おかずは何だったか覚えておりますか」
証人=「記憶ありません」
山上弁護人=「例えばなすび、きゅうり、トマト、いろんなものが考えられますが、何か記憶ありませんか」
証人=「記憶ありません」
山上弁護人=「五月当時、朝の食事に通常中田さんのお家ではトマトなどを食べるという習慣がございますか」
証人=「特別に頂いたり買ったりしてきた以外には五月だとトマトを食べる機会はありません」
山上弁護人=「当時、石川くんが逮捕された五月二十三日頃までに、新聞記者があなたのお宅に度々取材に来られましたか」
証人=「その間はしょっ中ですからもう」
山上弁護人=「第一審の裁判が浦和であったことはご存じですね」
証人=「はい」
山上弁護人=「その間もずっとしょっ中来ておりましたか」
証人=「ええ、所沢に通信部のある新聞社の方は時々来られました」
山上弁護人=「その中に、週刊文春にあなたの写真入りで会話が載っているんですが、あなたはこの穴について、残土が残っているはずだというようなことを言っておられるようですね、そういうご記憶ございませんか」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
山上弁護人=「やはりああいう穴を掘った以上は相当土が余っているはずじゃないかということを記者に言ったことがあるんじゃないんですか」
証人=「・・・・・・・・・」
山上弁護人=「これはもう証拠としてありますからね」
証人=「ああ、そうですか」
山上弁護人=「事件の内容についてそうした会話を交わしたことはありますか」
証人=「・・・・・・・・・」
山上弁護人=「あの穴を掘るには土工じゃないと掘れんように思うとか、相当の土が残っているように思うということをあなたのほうから新聞記者に私はこういう考えをとっていると、考えてみればそういうこともあったというような記憶はありますか」
証人=「ええ」
山上弁護人=「それから、善枝さんは学校から牛乳を持ち帰って飲むというようなことは無かったようですかね」
証人=「・・・・・・・・・・・・記憶ありません」
山上弁護人=「記憶ないというのは学校からわざわざ牛乳瓶を持って帰って、残った牛乳を家で飲むというようなことを見たことはないということですね」
証人=「・・・・・・持って来たか持って来ないかまで記憶ありません」
山上弁護人=「善枝さんは牛乳をお家で取っておられましたか」
証人=「取ってないです」
山上弁護人=「そうすると、学校で牛乳を取っておったかどうか、どうですか」
証人=「・・・・・・あの当時としてはまだ学校給食も始まってなかったように思うんですがね」
山上弁護人=「じゃ、善枝さんが外から牛乳を買って来てお家で飲むというようなことは見たことがありますか」
証人=「記憶ないですね」
山上弁護人=「実は善枝さんの持ち物の中から牛乳が入っていた瓶が残っておったんじゃないかというようなことになっておるようなんですが、どこかで牛乳をお買いになって善枝さんが、そしてその牛乳が残ったまま鞄に入れて家に帰るというようなことはあったんでしょうか、なかったんでしょうか」
証人=「記憶ありません」
(続く)
(被害者の鞄とともに見つかった牛乳瓶)