アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1066

「おい、私から逃げられるつもりでいるのなら、まちがいだぜ。私の手に鋭い爪があるようには見えるまい。けれどもお前を切りこまざく爪は私の心にちゃんとしまってあるのだ。それに私が弁護士ども皆に怖がられ、司法界きっての手ごわい次席検事として評判が高いのも、私が未だかつて獲物を取り逃したことがないからなのだ」

「被告よ、されるがままになるがいい。否認しようなどとは夢にも思うな。私はお前を〈生き腐れの道〉へ送りこんでやるからなあ」

以上は狭山裁判における山梨検事の発言では全くなく世界的名著「パピヨン」(アンリ=シャリエール著)に登場する検事の文句である。

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『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

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【公判調書3323丁〜】(昭和四十七年六月十五日午後)

                     「第六十一回公判調書(供述)」

証人=中田直人(四十一歳・弁護士)

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裁判長=「さっき検察官に答えられたんですが、六月十一日に検事の自白調書みたいなものが出来ている、これは控訴審に調書そのものは出ている」

証人=「はい」

裁判長=「それからその当時の警察官の同様の内容の調書、これも署名捺印がなさそうですが、こういうものが作られて存在していることは確かなんですが、それはあなた方の見方から言うと被告はそんなものの作成に関与していない、それは全然何か偽のものを作ったんだという風にお考えになるわけですか」

証人=「いえ、そうではありません。その点については十三日に会いました時にですね、石川くんはそのお前がやったんだろうと聞かれた、それから三人でやったんだろうと言われた、それで兄の六造と、それから"きただ"と言ったんですか、"さきだ"と言ったんですか、ちょっと今もう一人の名前は忘れましたが、その三人でやったんだろうという風に言われて頭にきて茶碗か何かを投げようとしたということがあったという話を私にしておりました。それからもう一つは私は先ほど盗聴されていたという風に考えているということを申しましたが、そういうこともありまして、その盗聴されていることをもある意味では前提にして本人と話をするということもありましたが、その、黙秘権などについては当然のことに告げておりました。その何も言う必要はないということもあるし、権利として言わなくてもいいんだと、ただし私は自分が知っていることは言いたければどんどん言いなさいと言いました。と同時にその時に自分が言ったことや何かに違ったことがあるならば署名もしなくてもいいし、指印もしなくていいんだということをも説明しております。そういうことがあって、まあ石川くん、頭にきたということも言ってましたので後になってその十一日、十二日の調書が署名捺印がないものが生まれたんだろうと思っております。ですから少なくともその内容に関してはその当時においても石川くんの本意でないことが書かれたからなんだろうと思います」

                                                                  (以上  重信義子)

昭和四十七年六月二十二日   東京高等裁判所第四刑事部

                                                 裁判所速記官  佐藤治子 印

                                                 裁判所速記官  重信義子 印

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【公判調書3325丁〜】

「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日

証人=中田健治(三十四歳・農業)

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山上弁護人=「五月一日の前の日、つまり三十日ですね、あなたが善枝さんを迎えに行った車は前の日はお使いになりましたか」

証人=「記憶ありません」

山上弁護人=「一日の日はお使いになりましたか」

証人=「・・・・・・使った記憶ありません」

山上弁護人=「善枝さんを迎えに行く時に車を車庫から出したという風なことを仰っておられますが、車庫に仕舞われたのはいつですか」

証人=「その日の前だと思います」

山上弁護人=「そうするとこの五月一日に善枝さんを迎えに行かれて、帰って仕事の都合で納屋に車を置かれたということですが、普通は車庫に車を入れる場合が多いんですか」

証人=「その時によって違いますが、大体車庫に置いております」

山上弁護人=「それから前回、裁判所の冒頭の問いに何か荷札のことで警察に取調べられたことがあるということがあったと思うんですが」

証人=「はい」

山上弁護人=「これはいつ頃のことなんですか」

証人=「いつて、記憶ないんですが、寒い時です」

山上弁護人=「寒い時と言いますと、その年の冬と聞いていいんですか」

証人=「もっとうんと後です。二、三年過ぎてからと思っております」

山上弁護人=「それは警官から尋ねられた内容はどういうことについてですか」

証人=「丸京青果へ出荷する荷札が何か善枝の事件の時にメモに使ったらしいんです。そのメモに使った荷札がお宅にあっただろうかというわけで聞かれました、それと同じものが。ですからその時には警察の方にお話したのは、赤坂部落が大体同じような協同出荷をしていた時に、どこへでも配布されて自由に持って来られた荷札だからということでお話し申し上げております」

山上弁護人=「そうすると証人のお宅でも丸京青果の荷札を使う場合はあるわけですね」

証人=「ええ、丸果とか丸京とか」

山上弁護人=「その荷札は取引先から配られるわけですか」

証人=「ええ、出荷組合の組合長さんが市場から持って来まして、その市場へ出したければその荷札をつけて何個口の何として出すわけです」

山上弁護人=「そして警察からそういう今ご証言いただいた内容ですが、善枝さんの死体を発掘されましたその穴に関係して掘り出した時に丸京青果の荷札が実はあったんだと、こういうことだったわけですか」

証人=「いえ、そのような質問だったかどうか、質問の趣旨については記憶ありません」

山上弁護人=「二、三年経った冬ですね」

証人=「三年か四年後ですね」

(続く)