アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1065

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

写真は事件当時の狭山市近郊(石田養豚場付近)。

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【公判調書3320丁〜】(昭和四十七年六月十五日午後)

                     「第六十一回公判調書(供述)」

証人=中田直人(四十一歳・弁護士)

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橋本弁護人=「先ほど弁護人の不信の問題に関して検察官の問いがありましたけれども、捜査官の誰かから弁護士とはこういうものだということを言われたということを被告人が証人に告げたことはありませんか」

証人=「石川くんが告げたことがあります」

橋本弁護人=「どういうことでしょうか」

証人=「六月の三日か七日の接見の時だと思いますが、その石川くんが検察官に弁護士さんにはいくらお金がかかるんだろうと聞いたら、一日五千円くらいだろうと述べたとかですね、それから弁護士というのは金儲けのことしか考えないと言っていたとかいうようなことを石川くんが言っていました。検察官に言われたということで」

橋本弁護人=「検察官から何か言われたということを告げられたことはありませんか」

証人=「・・・・・・・・・」

橋本弁護人=「それじゃ私から申しますが、小川検察官から何か言われたということを告げられたことはありませんか」

証人=「石川くんからそれを告げられたことはありません。石川くんに小川検事の取調べがあったのかどうかちょっと分かりませんが、小川検事のことについては兄さんの六造さんから言われたことはあります」

橋本弁護人=「どんなことですか」

証人=「六月の末に小川検事に呼び出されて六造さんが取調べを受けた時のことですが、石田一義、義男兄弟は大変利口な男だと、石田兄弟は松永東という弁護士さんがいらっしゃいましたが、松永さんを頼んだから早く出られたと、お前のうちはどうしてああいう弁護士を頼んだ、ああいう弁護士を頼めばお前のうちまで共産党だと思われると、ああいう弁護士に頼んでおればろくなことはないと。その時もやはり弁護士は金ばかり取ることしか考えていないんだというようなことを言われたということを聞きました。それで私どもは大変許し難いことであると考えまして、まず石田さんに六造さんの供述調書を取ってもらいまして、その上で鈴木次席に再び申し入れに行ったのですが会えなかったという記憶があります。そこで、兄六造がこういう話をしているのでこれは弁護人を誹謗するばかりではなくて、弁護人の活動並びに被告の防御権を著しく損なうものであるからこの事実を直ちに調査すべきであると、そして小川検事が本件に関して取調べにあたることをやめさせるようにという申し入れを当時の渡辺検事正に対して内容証明を出しました。五日以内か三日以内にその二点について返答するようにという内容証明を出しました。返事はまいりませんでしたので重ねて七月になってからですが、その点について回答するようにという内容証明を出しました。結局それらに対する返事はありませんでしたが、小川検事はそれ以後、私どもの知る限りでは家族その他に対する捜査に加わらなかったということを知っています」

橋本弁護人=「狭山に留置されている折に、狭山市長という者に石川くんが会ったということを聞いたことはありますか」

証人=「あります」

橋本弁護人=「これは誰から聞いたんですか」

証人=「石川くんです。ただそれを聞いた時期ですけれども、メモその他をあれして私はかなり早い段階で聞いたと思っておったんですけれども、捜査段階のメモでもありませんでした。ですからあるいは市長さんに会ったという話は自白撤回後で初めて聞いたのかも知れません。この辺は記憶としてははっきりいたしません」

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裁判長=「さっき弁護士と名乗る者が来たと言いましたね」

証人=「はい」

裁判長=「それと同時期じゃない」

証人=「ええ、少なくともそれと同時期ではないです」

裁判長=「ずっと後ですか」

証人=「ですから私は捜査段階で聞いておったという記憶を今まで持っておったんですが、接見のメモを見ますと、六月七日に偽弁護士の話は聞いているんです。ただ、市長の話を聞いたというメモが捜査段階の接見メモにはありませんでした。それであるいはその後かなり遅い段階になって聞いたのかもと今は考えていますけれども、記憶としてははっきりいたしません」

裁判長=「その弁護士が来たんで会ったという話はあまり今までには出てなかったですね、従来の記録では」

証人=「いや、石川くんが法廷でも述べていると思いますが」

裁判長=「それは偽弁護士であるということはどこで分かるんですか」

証人=「それは弁護人として付いているのは私どもしかないものですから」

裁判長=「弁護士さんが自分がこの事件をやってやろうかなんて言って拘置所に来るということも無きにしも非ずでしょう。狭山事件なら名前を売り込みに来る人もずいぶんあるようですが、だから偽弁護士であるということは、ただあれは自分達が正当に付いているんだと、それ以外の者は偽だと見ると、こういう考えですね」

証人=「いいえ、単純にそうではございません。弁護士さんに会った石川くんが言ったわけです。で、その会った時の模様は従来の取調べとちょっと違った形で、しょうじさんを捜せなんて言ったと言っておりましたけれども、つまり通常の取調官と違う形で会ったということでありましたから、私は弁護士という風に名乗って会ったものだと思いました。それから先ほども申しましたが、諏訪部課長だったと思いますが、そのことを聞いた直後に石川くんはこういうことを言っているけれども、そういう弁護士があったかということを聞きました。それについてはそういう弁護士さんが会う筈がないということを言ったと思います。ただそこで私どもはもともとそういう弁護士に会うことがあろうとは思っていませんでしたからこれは捜査官が会ったに違いないと思いましたから、具体的に四十才くらいで眼鏡をかけた丸顔の人で何か赤っぽい洋服を着ていたと石川くんが言ったと思いますが、何月何日、捜査官として会っていないかと、それでは何月何日の取調官は誰かと、いろいろ聞いたんですけれどもそれについてはのらりくらりとして何も言いませんでした。警察のほうで」

裁判長=「それは 」

証人=「諏訪部課長だと思います、当時警察の中で話したのは諏訪部捜査課長しかいませんでしたのでそうだと思います」

裁判長=「そういう者が会ったならば、それは調べ官が諏訪部課長だからそれに許しを得て会ったんじゃないかという風に考えるわけですか」

証人=「弁護士が通常会うあの状況では、それは中の捜査官、署長などが知らないで弁護士などが会う状況はとても考えられません」

裁判長=「だから弁護士だと言って、この、弁護士だというのは付いている弁護士だという意味じゃなくて弁護士の資格を持っている者だという者が来て会うということは絶無とも言えないんじゃないかと思うんですけどね」

証人=「諏訪部課長はだから石川くんは弁護士という人が会いに来たと言っているが弁護士と会ったことはあるのかと言ったらそれは否定したんです。弁護士さんがそんな先生方以外に会うはずないじゃありませんか、それでは何月何日にこういう人が取調べにあたったかとか、面会したかとか、取調官の名前を明らかにするように問い質(ただ)したんですが、それに対しては答えてくれなかったということです」

(続く)