アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1064

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

写真は事件当時の狭山市内。

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【公判調書3318丁〜】(昭和四十七年六月十五日午後)

                     「第六十一回公判調書(供述)」

証人=中田直人(四十一歳・弁護士)

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山梨検事=「(石川被告から中田弁護士へ宛てた手紙が)ですから何通くらいありますか」

証人=「ですから今記憶ありません。何通かは来ていると思います」

山梨検事=「四、五通はあったんですか」

証人=「四、五通くらいはあったんじゃないでしょうかね」

山梨検事=「その手紙の内容についてどういう記憶でございますか」

証人=「現在全くありません。それは九年間石川くんから随分たくさん手紙をもらいましたから、全くありません」

山梨検事=「私のほうから申し上げれば思い出していただけましょうか」

証人=「はい」

山梨検事=「初回は休まれたですね」

証人=「休みました」

山梨検事=「それから二回、三回は出られましたね」

証人=「はい」

山梨検事=「それから、四回、五回、六回、七回、八回、九回と休んでおられるんですね」

証人=「はい。休んだ事情についてはこういうことがありました。その昭和三十八年九月十二日に松川事件最高裁判所の最後の判決がありました。私は松川事件の常任弁護人をやっておりまして、その判決を迎えるについていろいろな準備があったのが第一回を休んだ理由であります。それからその後、判決後松川事件のことで被告の人たちと一緒に全国を回りました。それが十月から十一月にかけてだと思うんです。で、約一ヶ月の旅行でありましたが、その旅行の後に私は倒れたのです。ですから十、十一、十二月と休んでいると思います」

山梨検事=「中田先生が見えなかったので石田さんにお尋ねしたら、病気で今日休んでいる、自分は残念に思ったと、先生、これから寒くなります、お体に十分気をつけて下さい。今のが十一月六日頃の手紙。それから十二月二日頃の手紙では、先月二十五日の公判の折にはお目にかからなかったので心配しております。病気のその後の経過はいかがですか、早くお見舞いでもと思ってましたが生来の筆無精、今日までご無礼何卒お許し下さい、早く快方に向かわれることを祈っております。次の公判は十二日です。その日にはお目にかかることを合わせて祈っております。こういう手紙を受け取っておられることは間違いないんじゃないでしょうか」

証人=「今読まれてみればあっただろうと思いますが、記憶としては全く現在はありません」

山梨検事=「それから先ほどのその仰った控訴をするかしないかの点ですね、これについても先ほどのお話じゃ被告人からは何のあいさつもなかったという風にも受け取れるんですけれども、そうでしょうか。やっぱり何か被告人のほうから意思表示がそれこそ手紙であったんじゃないでしょうか」

証人=「何もありません」

山梨検事=「間違いないですか」

証人=「全くありません」

山梨検事=「控訴しましたというあいさつがあったんじゃないんですか、手紙で先生のほうへ。三月十七日付の」

証人=「記憶としてはありません。そういう手紙を受け取った記憶は現在はありません」

山梨検事=「本当に長い間お世話になりました。厚くお礼申し上げます。この御恩は生涯忘れません。石田さんや橋本先生に手紙を差し上げなければならないのですが筆無精失礼しております。どうか先生からよろしくお伝え下さい、三月十二日に控訴申立て致しました。その節はまたよろしくお願い申し上げます」

証人=「それはあったかもわかりませんが今の記憶としてはわかりません。そういったことを遥かに上回るほどその判決少し前のあの時、つまり、にやりと笑われた記憶が鮮明なわけであります。それと控訴をするまでに、控訴するかしないか、という相談を受けたことは全くありません。それは今仰った手紙が私は現在わかりませんが、事実だとしてもその手紙自体が示していることだろうと思いますが」

山梨検事=「それから、一審で被告人の態度は終始俯いていたというご証言をされました。これは証人がほとんど法廷に出ておられなかった、または出ておった時にそういう状況かも知れませんですけれども、これはまあ記録にもはっきり出ているんですが、証人に対して反対尋問もやっておる場合もありますし、もちろん裁判官の問いにも答えております。これはお認めになりますね」

証人=「はい」

(続く)

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『現行法では、検事と弁護人は対等の立場で発言できることになっている。だが、実際は、すべての状況は検察に有利である。

検察官は、現場見分は勿論、被疑者を代用監獄に拘束して取調べた資料、自供などの証拠をことごとく握った上で公判に臨むことができる。

被告弁護人は、検察の仕事が終わってから、自分の仕事を始めることになる。

しかも、検察は入手した資料を全部公開してくれる訳ではない。彼らは、警察という巨大な組織をもち、それを手足のように動かして証拠を集めてくる。弁護人は孤立無援だ。逆立ちしたって、警察の捜査能力には太刀打ちできない。やむなく、検察のまとめた膨大な資料から、針に糸を通すような努力をして、被告人の立場を守る突破口を捜し出す以外にはない。(連続八人殺害広域捜査一〇五事件〈強殺〉福田洋著)より一部抜粋』