アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1062

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

写真は事件当時の狭山市近郊。

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【公判調書3314丁〜】(昭和四十七年六月十五日午後)

                     「第六十一回公判調書(供述)」

証人=中田直人(四十一歳・弁護士)

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山梨検事=「先ほど、十五日の面会の時に一人が会ったんだが、被告人はジョンソン基地に盗みに三人で入ったということを言っておったということを言われましたね」

証人=「はい」

山梨検事=「これとちょうど裏腹になるのが昭和三十八年六月十八日の警察官調書、これは当審になって、当時の捜査過程を実証するという意味で出した警察の調書ですが、これの調書によりますと、お調べの事件は私と入間川の男と堀兼の者と三人でやった、その相手の名前は言えない、そのことは弁護士にも話であります、詳しいことは裁判所で話します、こういう調書になっているわけですね」

証人=「はい」

山梨検事=「これと先生の仰ったことが、ある意味では符号していると思うんですがね。この、お調べの事件が今あなたの仰るようなジョンソン基地の事件なのか、そんな事件がここで問題になっているのか、いわゆる善枝ちゃん殺しがここで問題になっているのか、この調書の上では、お調べが不明瞭ですのでこの点についての証人のお考えを聞きたいんですが」

証人=「考えというよりは、それは明らかにジョンソン基地の窃盗事件であります。と申しますのは、私が最近見ました十五日の接見のメモにもジョンソン基地へ行って鉄くずを、という風に書いてありまして、私が覚えていた記憶はそのメモによって完全に裏付けられました。従いまして石川くんが後に当審になってから自白の経過として述べた、三人でやったことを話すと署長に約束したということが正に私が六月十五日に聞いたジョンソン基地の鉄パイプの窃盗のことであり、従って六月十八日付の調書に記載されておる、そのお尋ねの件というのがジョンソン基地の鉄パイプの窃盗の事件であるということを私は全く疑いません。善枝さん殺しに関する意味ではないと思います。むしろ、ことさら本人が述べたことを明らかにしなかった調書自体に問題があるのではないかと後に考えています」

山梨検事=「どういう意味でしょうか」

証人=「十八日の調書の、お尋ねの件という書き方がその、いわば思わせぶりな書き方であるという風に後に考えております」

山梨検事=「次に六月二十六日の接見、これは先ほど証人は接見されていないというお話でしたが、私どもの記録によりますと先生も会ってるようなんですけどね」

証人=「そうですか」

山梨検事=「これはお見せしてもいいんですけどね」

証人=「それは何かの間違いだと思いますね。接見指定をお持ちのようだから調べてもらえばいいんですけれども、三人の名前で接見指定が出ているんじゃないでしょうか。二十二日に、二十六日と二十八日のが」

山梨検事=「六月二十二日に三人の名前で出ていまして、指定弁護人石田は欠席したというのはこれは六月二十八日です」

証人=「二十八日は、ですから橋本さんと私が会いました」

山梨検事=「=「それで六月二十六日は指定は中田弁護人と石田弁護人で、その二人が会って備考欄に特別の記載がないんですがね」

証人=「ああそうですか、しかし私は二十八日が先ほど申し上げましたようなこともあって、大変印象深い接見ではありましたし、最近調べた私のメモによっても私が会ったという記録はありません」

山梨検事=「まあ、お会いにならなくてもその後お聞きになったことでも結構なんですが、いわゆる物についての供述はいかがでしたでしょうか。特に二十六日というのは、その日ちょうど万年筆が出た日なんですよね」

証人=「はい」

山梨検事=「何か印象に残りませんか」

証人=「石川くんがという意味ですか」

山梨検事=「はい。物について話をして今取りに行ってるとか、取って来たとか」

証人=「二十六日に石田さんから聞いた限りでその辺の記憶はありません」

山梨検事=「二十八日はいかがですか」

証人=「二十八日もありません」

山梨検事=「物についての話はないんですか」

証人=「はい。その後、七月の段階で例えば時計を見せられたかどうかといったようなことを私どもが聞いた記憶はあります」

山梨検事=「弁護人としては一番、事件の見方としては自供はともかくとして物はどうなんだと、物はどうしたというようなことを本人に聞くことが普通であるだろうと思うんですよね、物についての追及はね。お前は物を知ってるのか、知ってないのかとそういう点についてはじゃお聞きにならなかったということですか」

証人=「聞いたかも知れませんが、石川くんがどう言ったかという風な形での記憶はありません。二十八日には、ただ先ほども申しましたが、大変泣きじゃくりながらぽつりぽつりとした形で自白の中身を話しておりましたし、時間も二十分ということでしたから今から考えればたぶん物のことについては聞かなかったんだろうと思います」

(続く)