『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
写真は事件当時の狭山市近郊。
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【公判調書3312丁〜】(昭和四十七年六月十五日午後)
「第六十一回公判調書(供述)」
証人=中田直人(四十一歳・弁護士)
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内藤弁護人=「一審の弁論で、非常に詳細に論拠を挙げられまして被告人の無実なるゆえんを切々と訴えられまして、控訴審でも控訴趣意書で同様でございますけれども、情状的な面を仮定的に論証しておられる面がございますけれども、その辺のお気持ちをちょっと簡単に」
証人=「私どもは審理が進むにつれまして、なかんずく客観的事実と自白との食違いから、自白が虚偽であるということを確信するようになりました。ただ午前中も何度か申しましたが、そういう角度から石川くんにも接見の都度尋ねたのですけれども、石川くんは自白を繰り返している。法廷でも自白を維持し続けているという状況でありました。私どもは所属している事務所の他の弁護士諸君の意見などもいろいろ聞きまして、この事態をどうすべきかということをいろいろ相談しました。その場合、被告人が自白を維持しているそういう状況で、しかもこの事件の性格からいきますと、死刑判決などが予想されるわけでありますので、情状の面からも今、先生も仮定的にと仰いましたが、やっぱり仮定的に主張し、そのための論証をなすのが弁護人としての当然の義務だろうという風に考えました。従ってその趣旨の証拠請求をも致しましたし、弁論をもしました。そのことは私どもの事案に対する見方、それに対する確信とは別物でありまして、むしろ私どもとして弁護人の通常の活動としてなすべき当然のことであったと思います」
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山梨検事=「弁護人が接見された日はかなり正確にご記憶にあるようですが、捜査段階、狭山の時点で、昭和三十八年六月の十五日に接見したという先ほどの証言がございましたね」
証人=「はい」
山梨検事=「六月十五日の接見は、接見時間を指定されて接見したんだという風なご証言だったんですが、それ、間違いありませんか」
証人=「はい、指定書によったかどうかの記憶はありませんが、終始、先生何分間でという指定は警察官によっても検察官によってもなされました」
山梨検事=「というのは、その起訴された以後ですからね、十五日は」
証人=「はい、はい」
山梨検事=「だから前と少し違うんじゃないかと思って念のためにお尋ねしているんですが」
証人=「はい」
山梨検事=「現に私どもの記録には十五日に面会のあれがないわけですよ、当然ないわけでしょう。まあ先生があったと仰るんですからあったには違いないと思うんですけれども、それが前の接見指定に基づく接見であったのか、それ以外の接見であったのか、その点を」
証人=「現在の記憶では、先生何分間で、と言われてやっぱりしたという、それ以外のことがあったとは思えません。ただ仰るように起訴後の時点ですから、いわゆる接見指定という形ではなかったのかも知れません」
山梨検事=「ですからあなた方の自由に、むしろ権利を大いに主張されて会ったんじゃないでしょうか」
証人=「まあ印象として自由に会ったという印象は現在そんなに残っておりません。なお、念のために申し添えますが、先ほども申しましたが、捜査段階における接見についてはむしろメモがございまして、最近そのメモに基づきまして記憶を整理しております。それによりますと確かに十五日は午前中から正午頃にかけて四十分か、四十分をちょっと越えるくらいだったと思います」
山梨検事=「再逮捕されてから以後の面会についてですが、二日の面会は先ほど朝という風に言われましたが、時間をもう少し正確にご記憶されておりませんか」
証人=「十時過ぎから二十分ちょっと、メモに正確な時間が書いてあったんですが、今はそれをちょっと見ましたが覚えていません。十時過ぎだったと思いますがね」
山梨検事=「午前十時何分か頃の時間ですか」
証人=「はい」
山梨検事=「面接時間は何分間ですか」
証人=「五分間です。何か今記憶ですから間違っているかも知れませんが、十時十八分頃から二十三分というメモの記録だったように思うんですが」
山梨検事=「あなた方は面会された後、先ほどもちょっと証言されたんですが、当時新聞記者が相当寄っていたと思うんですが、新聞記者会見というのはなさったんじゃないんですか」
証人=「会見というほど人を集めて特にした記憶はあまりありません。先ほど言いましたように十一日の要望書を出した時には私どものほうから求めていたしました。しかしそのほかに特に記者会見をするぞというようなことをやった覚えはありません」
山梨検事=「あるいは面接して出て来た時に新聞記者が集まって来たので、それで話をされるというようなことはどうですか」
証人=「ありましたが、接見の内容については私どもは新聞記者にいかなることも話したことはありません」
山梨検事=「例えばその、先ほどあなたが言われたように、まあ、あなたが直接お聞きになったかどうか、橋本弁護士でしたか、断食をしているとかしていないとか、こういうようなことを新聞記者に言ったことはありませんか」
証人=「十九日に橋本さんが会って来られて、聞いて、二十日に確かめたのですが、そのことを新聞記者に話した記憶はありません」
山梨検事=「あなた方のほうでよく引用されるんで私も当時の新聞をひっくり返してみたんですがね、例えば六月十八日の朝、中田、石田弁護人が二十分間接見し、報道陣の質問に何も言えないということで東京に引き揚げて行ったと、こういうように新聞記事が出ているんですが、何も仰らなかったんですか」
証人=「はい、それはその最初の勾留の段階でもそうだったと思います」
山梨検事=「そういう事情ならば、むしろそれが仮に本当なら、大いに新聞記者に言っていいことじゃないんですか」
証人=「ですから捜査なり、逮捕の違法性は言いましたけれども、その違法を裏付ける事実については私、語りましたが、それは石川くんがこうこう言っているというような言い方ではなくて、こういう事実があるという風に私は話をしたと思います」
(続く)