『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
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前回、前々回で触れた、被告人による上申書、および東京拘置所への電話聴取書に目を通した井波七郎裁判長は以下の発言を残している。(公判調書3280丁)
『押送に関する裁判長の発言』
「被告人から、去る四月十五日の第五十九回公判期日および同月十八日の第六十回公判期日に口頭で、又、去る五月八日付をもって書面により、大要次のような申立てがあった。
(この時裁判長は右各申立ての要旨を告げた)
なお、これに関連して東京拘置所の係官から右被告人指摘の押送に関する処置は、拘置所側としては、被告人の自殺又は逃走を予防するために法規に基づき講じたものである旨の簡単な回答があった。
当裁判所は被告人の右各申立ての趣旨を大綱次のように解釈する。
即ち、被告人は、公判期日に、いわゆる支援団体等の者が日比谷公園その他に集合していることを知っているが、それらの者の中には過激な者もいると聞いているので、出廷のための護送車の中、又は、東京地方裁判所内のいわゆる仮監と法廷の間の押送の途中において、その種団体等の者に対してあいさつするとか、合図を送ることは、従来から意識的に避けている。であるから、偶々、それら支援団体等の者の姿が被告人の目に触れるようなことがあっても、その程度のことについては、拘置所側においても、特に之を阻止するような処置をとることなく、自然の成り行きに任せておしい(原文ママ)、というのである。
よって当裁判所は、東京拘置所に対し、押送中における処遇について被告人が右の如き希望を持っていることを通知する。 以下余白」
昭和四十七年七月四日
○狭山事件が世に及ぼしたこの裁判に対する疑義の証左として、それは一つの国民運動としての広がりを見せており、ここでは、その規模に関連し三点の写真を挙げ、確認しようと思う。
(1973年11月27日、第69回再開公判時、一万五千人)
(1974年9月26日、石川被告人の最終意見陳述の日、日比谷公園は10万人を超える支援者で埋め尽くされた)
(上に同じ。写真三点は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)
○この事件、裁判がここまで大規模な展開を見せていたとは、当時10才前後だった私には予想外であった。
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【公判調書3282丁〜】(昭和四十七年六月十五日)
「第六十一回公判調書(供述)」
証人=中田直人(四十一歳・弁護士)
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橋本弁護人=「証人が、被告人の弁護人に選任されたのは、昭和三十八年五月二十九日でございますね」
証人=「選任届の日付は五月二十八日であったのではないかと思いますが」
橋本弁護人=「被告人と一番最初に接見した日を覚えてますか」
証人=「はい、昭和三十八年五月三十日です」
橋本弁護人=「接見した場所は」
証人=「狭山警察署です」
橋本弁護人=「接見は、誰としましたか」
証人=「橋本さんと一緒だと思います」
橋本弁護人=「この接見にあたって、警察がどういう態度を示したか、記憶ありますか」
証人=「最初の接見の時には、特段の問題はなかったと思います。時間も比較的多く、三十分くらいは、接見出来たと思います」
橋本弁護人=「接見した具体的な場所は接見室ですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「その時の、被告人の、当時は被疑者だったわけですが、被疑事実は、どんなものだったかお分かりですか」
証人=「はい、窃盗と、暴行と、恐喝未遂でした」
橋本弁護人=「恐喝未遂というのが、本件善枝ちゃん殺しに若干の関係のある佐野屋付近での恐喝ですね」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「その第一回接見の時、被告人が証人にどういうことを告げたか証言して下さい」
証人=「石川くんは、その後の接見の場合も同じだったのですが、よく涙を出していました、で、私が最初会った時は、最初の言葉は、お父さん、お母さんは元気でいるかと、お父さんお母さんに会いたいというようなことを言いました。それから、最初の日であったかどうかとなると、必ずしも正確な記憶はありませんが、毎日夜遅くまで調べられている、といったことです」
橋本弁護人=「被疑事実に対しては、どういう弁解をしておりましたか」
証人=「最初の日、そうですね、善枝さんを殺したろうとか、字を書いたろうと言われているが、自分はそんなことをしていないと、そう言ってました」
橋本弁護人=「第二回目の接見はいつでしょうか」
証人=「六月三日です」
橋本弁護人=「接見した場所は前と同じですか」
証人=「同じです」
橋本弁護人=「接見を一緒にした人はおりますか、証人一人でしょうか」
証人=「いや、やはり橋本さんと一緒だったと思います」
(続く)
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○証人である中田直人氏は、この狭山事件における被告人の主任弁護人である。橋本弁護人が中田主任弁護人へ尋問するというこの構図は中々興味深い。