『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
写真は事件当時の狭山市内。現在は住宅で埋め尽くされている。
【公判調書3229丁〜】
「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=山下初雄(三十四歳・農業)
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宇津弁護人=「裁判所からの呼出状は何日くらい前に受け取りましたか」
証人=「四、五日前だと思います」
宇津弁護人=「それから今日までの間に、警察のほうからあなたのほうに何か連絡してきたとか何とかということはありませんか」
証人=「ここへ出頭して下さいという話はありました」
宇津弁護人=「あなたのうちに尋ねて来たの。誰が」
証人=「それはお巡りさんが住所と名前を聞きに来ました」
宇津弁護人=「あなたのうちにお巡りさんが見えたわけね」
証人=「そうです。住所と自分の生まれたあれを聞きに来ました」
宇津弁護人=「いつ頃見えましたか」
証人=「四、五日前だと思いました」
宇津弁護人=「裁判所の呼出状というのはしかし郵便で来たんでしょう」
証人=「そうです」
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裁判長=「弁護人、この証人を決定するについてはよくわからないので、裁判所が電話で書記官に連絡させたことは何回もあるんだ。で、出頭を好まないで、何でこういう関係もないのに調べられるんかということで、非常に出頭を嫌っていたのを裁判所のほうでそういうもんじゃないんだということを何回も」
宇津弁護人=「警察官の問題は違うんでしょう」
裁判長=「それは違うんだ。書記官、警察官には」
小森立会書記官=「ええ、山下証人は警察のほうには何も依頼しません」
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宇津弁護人=「その警察官の名前は何というんですか」
証人=「・・・・・・名前は聞きませんでした。とにかくうちのほうの管轄のお巡りさんです。何か、新狭山の駅の前の派出所にいるお巡りさんです」
宇津弁護人=「それはその人がそう名乗ったんですか」
証人=「とにかく雨が降った日に来まして」
宇津弁護人=「で、自分はこれこれの派出所の勤務員だと言うことは自分で述べたんですか、それともあなたが前から知ってる人なんですか」
証人=「知りませんでしたね」
宇津弁護人=「それじゃ新狭山の派出所の人だということは」
証人=「自分が聞いたと思います、どちらさんですかと」
宇津弁護人=「そのとき名前も聞いたでしょう」
証人=「名前は・・・・・・、とにかく現在自分が居るところは堀兼なんですけど、幾年か前はそこのお巡りさんをやっていたらしいです。そんな話をして行きました」
宇津弁護人=「あなたはその人の名前を聞きましたか」
証人=「別に名前まで必要もないし聞かなかった」
宇津弁護人=「でもあなたの名前とか年令とか何とかを聞きに来たんでしょう」
証人=「ええ、そうです」
宇津弁護人=「あなた名前何というの、くらい聞かないで述べるんですか。いろいろ隠さないで述べなさい」
証人=「別に隠していないです」
宇津弁護人=「何分くらい居て帰りましたか」
証人=「そうですねぇ、雨が降っていて自分は農業だもので、ちょうどいくらか暇もあったりしたから、そうですねぇ、二十分くらい居たと思います」
宇津弁護人=「その方はあなたのうちに上がって」
証人=「そうじゃないです。上がらないです」
宇津弁護人=「あなたのうちの中で会ったわけですね」
証人=「そうです、うちの中で会いました」
宇津弁護人=「二十分くらいの間、何を話されましたか」
証人=「何かそのお巡りさんが、植木が好きなようで、皐月の話なんかをしていましたね」
宇津弁護人=「あなたが裁判所から呼び出されていることを、そのお巡りさんは知っていたようですか」
証人=「知っていません」
宇津弁護人=「じゃ何しに来た」
証人=「何か調べに来てくれと言われたから来たと言っていました」
宇津弁護人=「何を調べて来てくれと」
証人=「住所と名前と、それだけです。戸籍調べみたいなもの」
宇津弁護人=「調べて来てくれと言われたから来たと言ったんですか、そのお巡りさんが」
証人=「はい」
宇津弁護人=「それは誰に言われたと言っていました」
証人=「・・・・・・・・・」
宇津弁護人=「上の人に言われたという意味ですか」
証人=「そうですねぇ・・・・・・・・・何か、裁判所のあれじゃなかったですか」
宇津弁護人=「何か狭山の本署から言われて来たんだということも言ってましたか」
証人=「とにかく調べて来いと言われたからと言って、ただ、用件自体は、それだけを聞いただけでした」
宇津弁護人=「あんたの住所と氏名なんてものは、わざわざあなたの家に行かなくたって、いくらでもわかるがね」
証人=「はい」
宇津弁護人=「亡くなった登美恵さんの話なんかも、話のついでに出たのですか」
証人=「全然出ないです、本当の住所とあれだけは聞いて行きました。それで、届の話を聞いて帰りました」
宇津弁護人=「それは、嘘じゃないかな」
証人=「聞いてみて下さい、お巡りさんにも」
宇津弁護人=「現在どこに勤務してるんですか、もう一回言って下さい」
証人=「お巡りさんが、その時に言ったのは、新狭山の派出所にいると言いました」
宇津弁護人=「それまで、あなたは顔見知りじゃなかったんだね」
証人=「なんか、まあそうですね、だけどお巡りさん自体は、前に堀兼の、自分は知らなかったけれども、駐在所にいたらしいです」
宇津弁護人=「いつ頃」
証人=「いく年か前って言いましたね、それでどこかへ行って」
宇津弁護人=「どのくらい前、堀兼にいたという話でしたか」
証人=「年数は別に言わなかったと思いますね」
宇津弁護人=「あなたのうちのことなんか、なおさら知ってるんじゃないか、堀兼の駐在の経験があるならば」
証人=「誰を知ってるんですか」
宇津弁護人=「あなたをです」
証人=「おれを、ですか」
宇津弁護人=「そう」
証人=「知ってると思います、だけど自分は、そのお巡りさんは知りませんでしたよ」
宇津弁護人=「その二十分ぐらいの間、皐月の話が出たらしいが、それ以外に何を話したんですか」
証人=「以外ですか」
宇津弁護人=「皐月の話以外」
証人=「だから、住所と皐月の話それだけですよ」
宇津弁護人=「それで、二十分もかかるわけないでしょう」
証人=「とにかく、皐月の話で、前、堀兼村にいたものですから、自分は知らなかったけれども、何か、皐月を買った人の名前の家なんかの話をしてました」
(続く)