アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1021

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

ガラス戸に封筒が差込まれた状態を屋外より撮影(再現)したもの。(写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

【公判調書3194丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年) 

証人=中田健治(三十四歳・農業)

                                            *

山上弁護人=「あなたの脅迫状を発見したいきさつについて裁判所でも言っておりますが、武志がいたずらをしたんじゃないか、というようなことを仰ってますね、そして武志取ったらどうだというようなことを。そこでお尋ねしたいのは、あなたがお帰りになって家族の方と会話をなさいましたか、帰っておるのか、と」

証人=「どこにもいなかったんだと、そういう話はしたと思います」

山上弁護人=「誰とですか」

証人=「家の皆と食事しながら」

山上弁護人=「それは相当ご心配されているような雰囲気ですか、あるいはどこにおるのかな、程度のことですか」

証人=「心配してです」

山上弁護人=「心配してというのは、例えば雨に濡れて風邪をひかないかな、というような程度のご心配なのか、あるいはもっと本件みたいな不幸な事態を予想されての心配なのか、その程度はいろいろあると思いますが」

証人=「まあ最初は軽い気持でした」

山上弁護人=「武志さんが脅迫状を取って来たんですね」

証人=「はい、そうだと思います」

山上弁護人=「あなたの場所が一番、わざわざ武志さんが板の間から降りて来なくても、あなたの場所から手を伸ばせばすぐ届くところじゃないですか。なぜ武志さんを板の間から降ろして取らせることに意味があったんですかね」

証人=「・・・・・・・・・」

山上弁護人=「どうですか、そこ」

証人=「自分もそこに坐ったばっかしだったからだと思いますがね、帰って来てすぐ食事について間もない時だったもので」

山上弁護人=「あなたのご証言も分かりますけれども、それであれば、すっとあなたが行って取るということも可能なように思いますけれども、特に武志さんに取らしたということに理由があるんですか」

証人=「いいえ、別にないです」

山上弁護人=「武志さんはこんな悪さをちょいちょいやるんですか」

証人=「悪さをするということはないんですが、ちょっとまあ、コメディックなところもありましたから」

山上弁護人=「というのは、雨の中を帰らんということで心配しておったわけですね。脅迫状を見た時に、これは武志のいたずらかという風に思うということが、私、よく分からん。あなたのご証言によっても篠突く雨でしょう、外は。しかもあなたが今、開けて入ったばかりのドアにあるんですね、これ。武志がいたずらする暇があるでしょうか、どうです」

証人=「すぐ食事についたんですから、そのように質問されればやっぱりありません」

山上弁護人=「そうすると、何で武志の悪さという風になるのか、人間というものはいろいろ事情があるからあれだけれども、武志さんはあなたが戻られてから、出入り口を入られて、食事は板の間でしたんですね」

証人=「はい、一緒です」

山上弁護人=「あなたは、今入ったところにそういう物があるということで、何か疑問を持って、おかしいなということで、あなたがすっと取りに行くのが普通のように思うんですが、あなたそういう気は起こらなかったんですか。例えば、おかしいな、今入って来たところに、と思ってぽんと取りに行く、これが人間の普通の態度だろうと思いますけれども、今あなた入ったばかりのドアですからね」

証人=「・・・・・・・・・どうもその気持、分からないんですが」

山上弁護人=「それで取って来られたのは武志さんになってますね」

証人=「はい」

山上弁護人=「武志さんは、取ってどこまで持って来られたんです。図面でいうとあなたが腰掛けておられる木製長椅子、南の端まで持って来られたんですか」

証人=「ええ、ここで開いたと思ってますが」

山上弁護人=「誰が開いたんですか」

証人=「さあ、細かいところは記憶ないんですが」

山上弁護人=「これは大変な事件で、一生に一度の事件ですから、これは忘れようにも忘れられない事件だと思いますが、誰が開いたか記憶ありませんか」

証人=「自分が開いたか武志が開いたか、喜代治かだと思いますが・・・・・・・・開いたの見たのは自分が見たんですが、封を切ったのまでは記憶がないんですが」

山上弁護人=「封を切ったんですか」

証人=「封を切ったか開いたか・・・・・・・・・紙を、便箋を開いたのは、見たのは記憶あるんですが」

山上弁護人=「あなたが武志さんに指示して持って来いと言ったんでしょう。武志取って来いと言ったんでしょう」

証人=「はあ」

山上弁護人=「それじゃ武志さんは、事の道理としてあなたに渡すわけでしょう」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

山上弁護人=「なぜ記憶ないんでしょうかね、忘れることはないと思うが」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

山上弁護人=「封を切ったのか、切ってあったのかも覚えてない」

証人=「今となっては覚えてないです」

(続く)