【公判調書3170丁〜】
「第五十九回公判調書(供述)」(昭和四十七年四月)
証人=宮内義之助(六十六歳・藤田学園教授、千葉大学名誉教授)
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橋本弁護人=「ただいま最後に裁判長が聞かれた点をもう一度確認したいんですが、そうしますと資料三十二枚を受取りまして、うち十五枚については検査をなさらなかったわけですね」
証人=「そうでございます」
橋本弁護人=「検査というのは肉眼の検査をしただけで、それ以上の検査はなさらなかった」
証人=「はい」
橋本弁護人=「そして残り十七枚について検査をした結果、その十七枚の中にはこの性状を有するものはなかったと、こういう風に受け取ってよろしいわけですね」
証人=「そうでございます」
橋本弁護人=「あなたの鑑定書の三、予備実験というところがございますね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「この場合、試験用紙に筆圧痕もしくは鉛筆痕をあなたの方で任意に加えられたわけですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「その場合にその圧力の程度と言いますか、それをどんな風に考慮されたんでしょうか」
証人=「これは非常に難しい問題でしてね、圧力の、この例えば違う加圧のあれだとか何とかは、科学的に計っておりませんです」
橋本弁護人=「先生ご自身で資料をお作りになったわけですか」
証人=「実はここにもちょっと書いてあるんですが、こういう問題は私の方で初めて取扱う問題で、いろいろ私の出来る範囲でいろんな文献を調べてみたんです。それから、こういう風なこと、時々あるものですからこれとは違うんですが、それで私の今までの記憶でもあまりないものですから文献を調べたんですが、そういう文献がなかったものですから、それで私が自身でですね、いろいろやってみたんです。それにはあとで前の方にも書いてあります通り、いろんな考え方をいたしまして、それに従ってやってみて、そして大体こうではなかろうかという、ある程度の予想をつけたものです。それから私の所の助手をしております津金沢博士に大体の私のプランを申しまして、で、これに君は方でいろいろ考えて、いろんな場合を想定して実験してくれないかと言いまして、実験してもらったんです。それで、この予備実験と書いてある項はこれは津金沢君がやりました予備実験のことでございまして、そのほかに私がその前、あるいは津金沢君がやりましたその後で少し足りないなと思ったところは私の方で追加実験をしておるんです。それについてはここであまり書いてないんですが、というのは、実はこの予備実験あるいはその前に私が初めにやりました実験、それからあとで追加した実験等を考えてみますと大体同じような傾向にすべての実験の成績が出てまいるものですから、これでいいだろうということで実は細かいそれ以上のことには触れないでここに書いてあるくらいの程度で実験をやめたんでございます」
橋本弁護人=「そうしますと、鑑定書の八枚目の裏側、これは鉛筆痕と筆圧痕の交叉点の性状を観察した結果を記載されたもののようですが、そうすると、光学的方法(注:1)(1)弱拡大鏡による検査(注:1)のうしろ側に( ⅰ )から(ⅶ)までとして一定の結論を記載されておるようですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「( ⅰ )に『鉛筆の線が溝の部分で完全に断裂し、断裂した後線の方向がずれたり、異常に太くなるもの』とありまして、(ⅶ)に『変化が認められないもの』という記載がありますね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「この一連の記載は先生ご自身の記載でございますか」
証人=「ここのところは津金沢助手の予備実験の結果からやった結論でございます。ここのところの三、予備実験というところで(a)の終りの(3)強拡大による検査までです。そして(b)機械的な検査(注:2)というところは私がやったと思います。で、機械的な検査の前のところは助手がやりました。その成績を聞いて、それからいろいろなここに鑑定書には載せてございませんですが、実験成績の膨大な表があります。その表などを見まして書いたわけでございます」
橋本弁護人=「この文章自体をお書きになったのは先生なんですか、助手の方ですか」
証人=「ちょっと今、助手の書いたのをあるいは場所によっては私が文章の、て、に、を、は、だとか、そういう風な簡単なところは私、直したかも知れませんが、内容は直してないはずです」
橋本弁護人=「そうしますと、この予備実験で(a)光学的方法の(1)弱拡大による検査とありますね、この部分の結論自身は先生ご自身では確かめられなかったと」
証人=「いえ、こういう傾向があるということは津金沢君に実験をする前に私がやって見たがこういう傾向もあるよという、これは暗示じゃないんですがあったんだということは申しましたです。これは私が一第初め( 注:3)にいろいろやってみまして見つけたんです」
橋本弁護人=「先生ご自身でその筆圧痕や鉛筆痕を作って、そして実験をしてみた」
証人=「ええ」
橋本弁護人=「そうしますと筆圧痕を作成する場合、あるいは鉛筆痕を作成する場合ですね、その紙に与える圧力の程度については何を基準になさった」
証人=「これは自分の強いとか弱いとか主観的な問題でそれを数字的にどうこうて、計測いたしておりません」
橋本弁護人=「そうすると先生が日常普段に字を書く時の通常の圧力ということでございますか」
証人=「いいえ、それはもういろんな圧力によって自分自身が薄いやつだとか、濃いやつだとか、いろいろ作ってみたわけなんです」
橋本弁護人=「圧力の程度を変えて実験をしてみたわけですか」
証人=「ええ、これはしないとあとが困るものですからこれは基礎的な問題です」
(続く)
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(注:1)光学的方法(接写、弱拡大顕微鏡写真、紫外線および赤外線写真撮影)による飛び越え現象と持ち運び現象の観測。
(注:2)機械的方法(接着テープによるはぎとり効果、消しゴムによる残留現象の観測)十七倍接写および弱拡大顕微鏡写真(五十倍)による方法、消しゴムによる残留現象の観測。
(注:3)は原文通り引用(写真)。