アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1013

写真は三枚とも二〇五〇丁。

【公判調書3166丁〜】

        「第五十九回公判調書(供述)」(昭和四十七年四月)

証人=上野正吉(六十四歳・東邦大学医学部教授)

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山梨検事=「その問題と関連しまして、同じ二〇五〇丁の上の方に『この辺で自転車を云々』と書いてありますね、これは、明らかに本人と違う作成者なんですが、この作成者が裏の字を見まして、これは、私の字ではないということを言ってるわけです。そしてみると、やはり二重に謄写をやったんじゃないかと」

証人=「二重も結構ですけど、両面カーボンを置いて、最初から鉛筆で書いたのでなければ説明が付かんです、完全にこの図と一致させるということは、神技以上のものです。その点で、二〇四九丁の二重ぶりとは、私は違うと思うんですけど、二〇五〇丁を見ると、こんな完全な一致はないと思います、鉛筆で書いたところに骨筆でなぞるということはですね。ですから二〇四九丁でも完全な平行線が跡に残ることは不思議なことですから、それで解釈が付かないと申し上げたんです。平行線も難しいけれども完全にその上に鉛筆でのせるということは難しいです。のせようとすると、筆力がゆるくなりますから、スピードが落ちます。そうすると、ためらいが出てくるんです、こんなに立派にさっと引けることは、これは出来ないんです」

山梨検事=「最後に一つ確かめておきます。何度も問題になってますが、鑑定書の十八ページの後ろから三行目のところですが、被告人以外の者が骨筆の類いで筆圧痕を作り、この後に、被告人をして、鉛筆でその跡を辿らせるというやり方もまた考え得られる、というくだりですが、これに関連して、いわゆる先生の『もち運び現象』ですね、それから『とび越え現象』、この現象はこの部分ではどうなんでしょうか」

証人=「こういう風な現象でどちらが先か分かったというなら、何も問題が起こってこないんです」

山梨検事=「要するに不明だからということになりますか」

証人=「はい」

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裁判長=「今、検察官が聞かれた点ですが、何人かが筆圧痕を作り、この後に、被告人をして、鉛筆でその跡を辿らせるというやり方もまた考え得られるということですが、これは完全に筆圧痕の上を逸(そ)れないで、きれいにトレース出来るものでしょうか」

証人=「それは難しいです、そんなことは」

裁判長=「さっきのと同じ意味でですか」

証人=「はい」

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昭和四十七年四月二十一日 東京高等裁判所第四刑事部

                                                    裁判所速記官  佐藤治子

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○結果的に上野鑑定は一、二の疑点を残したものの大旨が「筆圧痕があと」というものであり、検察側の主張を支持したものになった。

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【公判調書3168丁〜】

        「第五十九回公判調書(供述)」(昭和四十七年四月)

証人=宮内義之助(六十六歳・藤田学園教授、千葉大学名誉教授)

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裁判長=「ここにお出しになった鑑定書、これは当該の鑑定書でございますね、あなたが作成されたものですね」

証人=「はい」

裁判長=「昭和四十五年七月二十三日付で出ているんです。この当時は千葉大学の医学部法医学教室におられたんですね」

証人=「はい」

裁判長=「この鑑定は今日出頭なさるについて、お手元にある複本などについて一応ご検討になりましたか」

証人=「はい、一応ざっと見てまいりました」

裁判長=「何か訂正なさるようなところはございますか」

証人=「ございませんです」

裁判長=「それじゃ私の方からちょっと気が付いた点を申し上げますが、鑑定書の目次から数えまして十四枚目になりますが、つまり本文の終りでございますね、五というところです。『鉛筆痕のある資料(注:1)の上から筆圧痕を加えた(イ)ものは次のごとくである』とこう言われて、ナンバー一九五二丁、二〇七四丁と挙げられて、その次に、二〇八一丁とあるんですが、これは二〇九一丁の間違いであるかどうかということは、いかがでしょうか(原審記録第七冊の二〇九一丁を示す)」

証人=「ああこれ、九という字でございますか、八のように見えるものですから」

裁判長=「(鑑定書末尾添附の写真二十八、二十九を示す)写真も二〇八一、二〇八一となっています」

証人=「これは変な話ですが八とも読めそうな気がしたものですから、印刷がずれておりまして」

裁判長=「じゃナンバー二〇八一とあるところはすべて二〇九一と訂正していただくと、こういうことになるんですね」

証人=「はい」

裁判長=「それから、今と同じところの七、というところで『鉛筆痕と筆圧痕が認められるが、成績の判定が不能のものは次のごとくである』ということで二つ挙げられておりますね、二〇三四丁、二〇九六丁。これについても、もちろん他との関連において検査をなさった上で、やはりこの程度じゃ判定することは出来ないと、こういう風に結論付けられたんだろうと思いますが、その通りでございますね」

証人=「はい」

裁判長=「それから、鑑定の最初のところを見ますと、一、ですね、『資料三十二枚のうち、次の十五枚は検査の対象となり得なかった』というので十五枚挙げておられる。これについても一応同じような検査をしたんだが、検査の対象となり得なかった、なり得ないというのはいろんな理由がおありだろうと思うんですが、簡単にそれを仰ることが出来ましょうか」

証人=「ここで言う、なり得ないというのは肉眼的に見まして、今記憶がはっきりしておりませんですが、多分そうであろうと思うんですが、筆圧痕がなかったりですね、あるいはあっても非常に筆圧痕が薄くてだめであろうと考えられるようなものを指していると思います」

裁判長=「そうすると鑑定主文の最後の八、『まず筆圧痕を形成しておいて、次に鉛筆痕を追加した(ロ)の性状を有するものは検査せる限りにおいて資料から発見出来なかった』この、十五枚は検査の対象となり得なかったと、こういう風に書かれておる、それから七のところで、二〇三四、二〇九六、これも判定が不能であると、こう言われますが、それらのものもすべてこの(ロ)の性状を有するものであるかどうかという検査はなさったんでしょうか、なさらなかったんでしょうか」

証人=「それは肉眼的の検査だけで、もうこれは検査の対象となり得ないと判定いたしております」

裁判長=「そうすると、一の十五枚は、この八のところで(ロ)の性状を有するものは資料から発見出来なかった、そしてこれは検査せる限りにおいてという、その検査せる限りにおいてという中に入っておらないのですか」

証人=「そうでございます」

裁判長=「七のほうは入っているわけですね」

証人=「そうでございます」

(続く)

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(注:1)「資料」と原文通り引用したが、ここでは鉛筆痕の存在する物質を検査・分析の対象にしているということなので、その場合、「試料」という言葉が適していると思われるのだが。