アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1012

【公判調書3164丁〜】

        「第五十九回公判調書(供述)」(昭和四十七年四月)

証人=上野正吉(六十四歳・東邦大学医学部教授)

                                            *

山梨検事=「最後のほうからやっていきます。記録二一一四丁についてですね、自信を持って書いた図だということですが」

(二一一四丁)

証人=「二一五〇丁じゃないですか」

(二一五〇丁)

山梨検事=「二一五〇丁でもいいんですが、二一一四丁について」

証人=「ええ、同じだと申し上げました」

(二〇七五丁)

山梨検事=「それと幼稚だと仰った二〇七五丁とについてですが、これは、同じ場所を片方は道路を直線で書き、片方は肉付けして書いた図面ですね。作成日付も違いますし、したがってあるいは何回も、というか、書き慣れてだいたい自分の頭の中で構想で自信を持って書けるという場合もあるんじゃないかと。それ以外の点も、だいたい自信を持って書いたという図は単純な道路、そうでない、前のほうは山の中のような複雑な地形であると、こういうことからやはり、自信を持って書き方が、知ってる道路を書く場合と、そうでない山中というような場合、違ってくるんじゃないでしょうか」

証人=「いや、二一一四丁と二一五〇丁、これは、私も中々書けないような立派な図だと思います。こういう風な道路をダブルの線を使って、しかも、交差点も書き誤りなく書ける、ということは、これは中々大変なことです。普通は、いろんな供述調書なんかの、もっと知能のある人の図を見ましても、二〇七五丁が普通なんです。それは今もそう思っております」

山梨検事=「二〇七五丁と二一一四丁は同じ場所ですね」

証人=「これは格段の差があります」

山梨検事=「太く肉付けしただけとは思えないでしょうか」

証人=「そういう肉付けするということは簡単ではないんですね」

山梨検事=「それから、私ちょっと、先ほど、二一一四丁の図面でT字路のところを、真っ直ぐ引いた鉛筆のところを消したんじゃないかとお伺いしたんですが、二〇七五丁と較べて、要するに真っ直ぐ引いて見て・・・・・・」

証人=「誰が消したんですか」

山梨検事=「要するに作成者がですね」

証人=「先ほど申し上げました通り、そういう疑いは出て来なかったんです。私、これは細い鉛筆の線と、太い線を引いてから消しゴムで消したのとは、顕微鏡で、はっきり違うのですから」

山梨検事=「それから、二重のカーボンの跡が出ている二〇四九丁と二〇五〇丁についてですが、裏面のカーボンに出ている二重ですね、これは、二〇五〇丁の裏の二重さと、二〇四九丁の裏の二重さは・・・・・・」

証人=「二重さとは何でしょうか」

山梨検事=「平行になっている二重が明らかに違いますね」

証人=「どこが違いますか」

山梨検事=「差が見られますね」

証人=「差があります、これが私には分からないと申し上げたんです」

山梨検事=「何か書く時に、先が二重になっていて、あるいはボールペンが引っかかって二重になるとか、そういうことがカーボンに結果として出たということは考えられませんか」

証人=「その二重が一度で出来た二重か、二度で出来た二重かお答え出来ません、分かりませんから」

山梨検事=「それから二〇五〇丁の場合ですね、あなたとしては、鉛筆で書かせる時に、下にカーボンを敷いて書かせたんではないか、という風な考え方ですね」

証人=「はい」

山梨検事=「二〇五〇丁の右下隅に名前が書いてありますね。で、表(おもて)面はもちろん指印がしてあって、裏面のほうには指印の枠が二重になってますね」

証人=「はい」

山梨検事=「そこを考えますと、もしカーボンで初めっから書かせたとすると、二重になる理屈というのはちょっと理解しにくいと思うんですが」

証人=「最初に一枚出来ますね、それから、もう一回なぞれば二回目も出来ますね」

山梨検事=「もし、鉛筆で、最初作成した時に、同時にカーボン紙を入れて書いたとすれば『石川一夫』と本人に書かせて指印を押させますね。だから『指印』という字は一回目にはなくていいんじゃないでしょうか」

証人=「この『指印』というのは本人は書かないのですか」

山梨検事=「そういうことですね、普通常識的には。だから指印の二枠というのはおかしいんじゃないですか」

証人=「成る程、それは知りませんでした」

山梨検事=「後で、カーボンでもう一回とる時はいいんですよ、その枠が二重になっているでしょう、二〇五〇丁の裏面図を見ると」

証人=「指印という字も二重です」

山梨検事=「だから、本人は、そういうことはやらんでしょうし」

証人=「結局そうすると、あなたの考えは」

山梨検事=「私の考えは、要するに作成者に書かせる時は、カーボン紙を入れてなかったんじゃないか、あとから二回とったんじゃないかと」

証人=「二回ね」

山梨検事=「謄写する場合に、ずぼらな謄写屋もいるし、精巧に書く謄写屋もいるということになるんじゃないですか」

証人=「面白い指摘ですね。鉛筆の跡と、カーボンの跡と、あまりに一致し過ぎるんです。これは、あまりに一致し過ぎるから、私は最初から両面カーボンを入れたと見たわけです。あなたの説明では、指印の点からは、鉛筆で書いておいて、あとで両面カーボンをやって、二回ということが出てくるようですね。あまりに図の一致から見ると、そういうことは考えられないです」

(続く)