(狭山再審弁護団は万年筆発見時の状況を当時のまま正確に再現し検討している。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)
【公判調書3082丁〜】
「第五十七回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=諏訪部正司(四十八歳・浦和警察署刑事第一課長)
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松本弁護人=「その部分のことを今、聞いているんですが、その部分はいやでも目に付くのと違うんですか。目の前に、私みたいに背の低い者でもすぐ見えると、勝手口に立てばね」
証人=「あとになって発見した時の状態からして、ああ、あそこは捜索が落ちたんだなというようなことはありました」
松本弁護人=「まあ、これは私の常識的な推測ですけれどもね、ああいう場所を調べてみないで、捜索に入るということは、まあ、よっぽど愚かな人間が集まっておったんですなら別です。普通の頭を持った捜査員であれば、なにも優秀な人でなくてもいいですよ、ごくごく普通のね」
証人=「私ども愚かであったら退廷させてもらいます。愚かな証人をこれだけ呼び出してですね、失礼ですよ」
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裁判長=「ちょっと待って下さい、弁護人も言葉を慎んで下さい」
松本弁護人=「いえ、そうじゃないです。この人を愚かと言っているんじゃないです」
裁判長=「いやね、そういう風にね、いやでも目に付くという風なのは、少し、形容詞が強すぎます」
松本弁護人=「いいえ、それはいやでも目に付くから聞いているんです」
裁判長=「いや、そんなことはないです」
松本弁護人=「私は実際に現地へ行ってますから、私の体験で申し上げております」
裁判長=「裁判長も何回も行っております」
松本弁護人=「それは裁判長と私の見解の相違です」
裁判長=「いや、裁判長だけじゃないです。当審検証調書には"いやでも"とは書いてないです」
松本弁護人=「ですから、それは私の印象で申し上げているんです」
裁判長=「だから、それならそう言いなさい。いやでもと言うと、一般的になりますから」
松本弁護人=「では、私の質問をね・・・」
裁判長=「質問を穏当な質問にして下さい」
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松本弁護人=「私の印象では、私が石川君の自宅をつい最近行って、私自身の目で確かめたその印象によれば、勝手口の上がった所、要するに、風呂場の横の板の間に立てば、いやでも目に入ってくる、そういう場所ではないでしょうかと私は思うんだが、どうですか」
証人=「私はそのように見ませんでした」
松本弁護人=「あなたは天井裏を捜したと言いましたね」
証人=「はい」
松本弁護人=「天井裏の何を捜したんですか、つまり何を発見しようとして、どういう風に捜したんですか」
証人=「これはたとえば、そこに証拠になるような地下足袋だとか、被害品だとか、その当時のものがあるんじゃないかと、まあ、普通、まあ愚かですが、屋根裏辺りには隠しておくようなこともありますので、それで見たわけです」
松本弁護人=「その場合にね、あなた方はベテランの捜査員ですからお尋ねするわけですけれども、そういう贓物というか、犯罪によって取得したものを隠す場合に、ただ、そのものをなまのままで置いておくのか、それとも、あるいは何かにくるんで、まあ、さりげなく置いておくのか、そういう点についていずれの場合もございますか。なまのままで置いておく場合もあれば、何かにくるんでね、ぼろにくるんでとか、さりげなく入れておくという二通りの場合があるんじゃないでしょうか」
証人=「証拠品の保管方法ですか」
松本弁護人=「そうですね。犯人が贓物を保管する場合の方法ですね、家の中に隠しておく場合の方法ですね、いずれの場合もございますね。たとえば万年筆をね、そのまま天井裏に置いておく場合と、あるいは、ぼろ布にくるんでまとめて置いておく場合と二通りの方法がございますね」
証人=「それは二通りも三通りも幾通りもあるんじゃないですか」
松本弁護人=「そうすると、第三回目に六月二十六日に行って、その万年筆を発見したというその時の状態では、そこの勝手口の上のところには、きれ(布)が、ぼろきれ(布)がその間に入れてあって、そしてその奥に万年筆があったという風なことになっておるようなんですよ。そうすると、あなた方の勘としてはそんなところに不自然にきれ(布)」が突っ込んであれば、当然目につくんじゃないですか。それは非常に見にくいところならば別ですけれども」
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裁判長=「今のは、いつのことをお聞きになっておるんですか」
松本弁護人=「六月十八日」
裁判長=「ちょっと、六月二十六日と」(原文ママ)
松本弁護人=「五月二十三日と合わせて聞いているんですが、とりわけ六月十八日」
裁判長=「今の」
松本弁護人=「今の質問です」
裁判長=「今のはそう言わなかったでしょう」
松本弁護人=「六月二十六日に誰かが行って、そして、そういう状態の・・・」
裁判長=「六月二十六日にこの人が行ってということじゃないんですね」
松本弁護人=「そうじゃないんです」
裁判長=「ちょっと、そこのところが」
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松本弁護人=「五月二十三日、六月十八日の場合も、いずれも共通して言えることですけれども、当然、そんなところに、ぼろきれ(布)のようなものが故意に突っ込んで見えれば、一番この疑いをかけて、そこを調べるということになりはせんのですか」
証人=「ぼろきれ(布)でも出ておって、目につくようなところがあれば当然やりましたが、その時に、目がつかなかったということですね」
松本弁護人=「そうすると、この一点だけに絞りますけれども、そうすると五月二十三日、あるいは六月十八日にあなた方がまぁ、十人か二十人か知りませんが、克明にお調べになった時には、その場所にはひょっとしたら、そのきれ(布)も何もなかったかも知れませんね。だから目につかなかったのかも知れませんね。これは推測ですからね、そういう可能性もありますね。それ以後に、つまり六月十八日の捜索以後に誰かの手によって、誰かわかりませんよ、石川君自体でないことははっきりしてますが、誰かの手によって、そこに、そういう状況が仕掛けられた、あるいは作られたという可能性もありますね」
証人=「今、弁護人のお話だと、捜査上の、あまり、幅がありすぎて、漠然とした質問のように感じます。誰かがとか、そういったそのいい加減の問題じゃねえと思うんです」
松本弁護人=「だから、あなた方が二回にわたる多人数の捜索をした時に、そこも調べておる可能性もあるんでしょう。調べなかったわけじゃない。なかったと断言できるんですか、そこは全く見ませんでしたという風に仰るんですか」
証人=「それは言えませんね」
松本弁護人=「ということは、そこを見た可能性はありますね」
証人=「その点があれですね、捜査のミスでして、認めざるを得ないと、恐らく見ていないと確信してます」
松本弁護人=「いや、あなたは見たかも知れんと言ったんじゃないか、今」
証人=「それじゃ、それは訂正します」
(続く)