アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 984

写真には被害者の遺体発見場所、芋穴、スコップ発見場所が写っており、鉛筆が指し示す方向、すなわち入間川駅方面、その手前に石川被告宅や奥富玄二の新居が構えてあった。

【公判調書3075丁〜】

               「第五十七回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=諏訪部正司(四十八歳・浦和警察署刑事第一課長)

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松本弁護人=「先ほど石田弁護人からの尋問に対して地下足袋がスコップ発見現場から約三百メーターほど北方と当初言われたんですが、図面によると大体北西の方を指示されましたが、その方で発見されたように思うということを述べられましたね」

証人=「はい」

松本弁護人=「これは証人も現場へ行って地下足袋をご覧になったんですか、あるいは後でその現場をご覧になったんですか」

証人=「後で現場を見ましたが、それほど強い記憶にはありません」

松本弁護人=「場所は大体覚えておられるんですね」

証人=「今行ってこの辺だと言われても自信がありません」

松本弁護人=「その時にはどういう所から発見されたか記憶ありますか」

証人=「麦畑のような記憶がありますね」

松本弁護人=「それは何か目印になる、道路とか人家から見て、どの付近にあったのか指摘出来るような点はありませんか」

証人=「忘れました」

松本弁護人=「奥富玄二の新築の家屋に近い方角になっておるということを述べられたんですが、近い方角になっておるという意味はどういう意味ですか」

証人=「スコップの発見地点を基準として話しております」

松本弁護人=「ですから、その近い方角になっておるということは、ちょっと私意味が分かりにくいから聞いておるんですが、どういう意味でございますか」

証人=「それ以上はちょっと記憶的に説明がつかないわけです」

松本弁護人=「ちょうどあなたがスコップの発見現場からこの方角約三百メーターの所で発見されたように思うと、こう仰ったその方向を辿りますと、大体、奥富玄二の新築家屋のあたりに落ち着くような感じがするんですが、これは私の推測ですよ、一つの距離的に考えても距離的にはもう少し奥富さんの方が近いかも知れませんけれどもね、だからそういう位置関係から見て証人の記憶では奥富玄二を通り越した更に向こう側にあったというのか、あるいは奥富玄二の家の近くであったというのか、あるいは奥富玄二の家とスコップの発見現場との中間であったというのか、そういう関係で言って下さい」

証人=「どうもその点、第一その地下足袋が出たという位置がどうも思い出せないわけです。大体この方向であるということだけは言えますけど、奥富玄二の家も記憶がなくなっております」

松本弁護人=「それではこの地下足袋は領置したということを述べられましたね」

証人=「私自身はやってません、書類上あるいはやっておると思います」

松本弁護人=「だから、領置調書を作り、物を領置したということでしょう、それを物と言えばね」

証人=「ええ」

松本弁護人=「とすればもちろん送検書類の中に入っているわけでしょうね」

証人=「その点はちょっとはっきり記憶にはありません」

松本弁護人=「その地下足袋が発見された位置関係についての実況見分調書も作成されたんでしょう」

証人=「そう、出来ていると思いますが捜査の段階でそれほど必要はないと判断しておりましたから、記憶が薄らいでいるわけです」

松本弁護人=「その発見された地下足袋について何か、たとえば死体発見付近の現場、あるいは佐野屋付近から逃走したと思われる地点における畑の中の現場、そういう所に残されておった足跡との比較対照などは試みたんですか」

証人=「もうそれは発見された時に使用していないような地下足袋ですから、その当時使用はされてなかったと、こういう風に判断しているわけです。従いまして捜査対象から外しております」

松本弁護人=「そうすると足跡のいろんな資料には用いておらんということですね。現場に遺留されておった足跡との同一性の対照物件としては用いていないと、こういう意味ですか」

証人=「その通りですね」

松本弁護人=「それから、その死体発見現場付近に、何か雑木林の中だったかも知れませんが、ちょっとした小屋があってその中に、たとえばヌード写真の入っている雑誌があったり、とにかく二、三人の人達がその小屋に滞留していたということを伺わせるような状況があったという事実がありましたか」

証人=「はい」

松本弁護人=「その小屋はいつ発見されたのか、記憶ありませんか」

証人=「記憶はありませんが、書類には残っておると思います」

松本弁護人=「どういう形で証拠として残されておりますか」

証人=「やはり捜査の所定の手続きを踏んでいると思います」

松本弁護人=「実況見分などもしておるんですか」

証人=「恐らくしたと思いますが、ちょうど死体発見の位置と、それから小屋のある位置と、死体発見の位置を特定しまして、小屋のある位置と、あった位置と、それから、恐らく地下足袋が、今仰られてる地下足袋との距離が同じくらいのような感じに記憶しておりますが」

松本弁護人=「もう一度私から繰り返してお聞きしますと、死体発見の位置と、それからその小屋並びに地下足袋発見の位置との距離がほぼ等しかったであろうということですか」

証人=「ちょっとそれは取り消しておいて下さい」

松本弁護人=「それじゃこういう風に伺いましょう、小屋があった位置というのは死体発見現場、あるいは証人のご記憶でもっとはっきりしたものがあるんなら、スコップの発見現場でも結構なんですが、まあ原則として死体発見現場から見て、どの方角にその小屋があったんでしょうか」

証人=「東方ですね」

松本弁護人=「東方と言うとその付近の状態はどうでしたか」

証人=「そこへは私現場へ行っておりません」

松本弁護人=「行っておらんということは見ておらんのですか」

証人=「はい」

松本弁護人=「報告で聞いた限りではどうでしたか、畑の真ん中なのか、あるいは山の中なのか、林の中なのか」

証人=「忘れました」

松本弁護人=「何日頃にそういう小屋があるということが発見されたんですか」

証人=「それも忘れました」

松本弁護人=「死体発見直後の時期ですか」

証人=「直後というか、死体発見からあとは記憶しております」

松本弁護人=「あとというのはそれほど間を隔てない直後の時期のことですか」

証人=「その点もう記憶がなくなりました」

松本弁護人=「あなたはその小屋について、現場には行かないで、その小屋の外観、あるいは内部の状況について撮影した写真などをご覧になりましたか」

証人=「見ました」

松本弁護人=「それに関係した調書が作られたわけですね」

証人=「その通りです」

(続く)

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証人は、雑木林付近にあった小屋を写真で「見ました」と証言している。これを踏まえ調書を読み進めよう。