アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 581

【公判調書1810丁〜】

東京高等検察庁検事=平岡俊将の意見

第四、事実取調請求について

   一、請求書第一の鑑定

  (二)、第一、の三、の腕時計に関する鑑定請求については、本件時計の発見届出後、当時科学警察研究所に対し、時計の地中埋没時間推定の鑑定が可能なりや否やを問い合わせたところ、同研究所機械研究室より、『一、金属の腐蝕

    金属の腐蝕はその環境に左右される。その環境としては、大気、水(淡、海水)、化学薬品、高温気体(空気、水蒸気、その他の気体)、土壌(地下埋没金属の自然腐蝕と電気的腐蝕)などがある。

気体の作用は二百度c以下では金属体としての反応はあるが、腐蝕の進行はない。

進行があるのは液体、特に電解質水溶液に接する場合である。理由は、金属が環境の原子又は分子と化合物を作ることにある。出来た化合物がその環境に対して安定なものであれば腐蝕は進行しないが、不安定な場合(溶解、剥離)は新しい金属面が表われるため、あるいは前記の腐蝕による粗雑な銹の層を通して腐蝕は進行する。

腐蝕を起こす水は液体の水でなければならない。入梅時に鉄が腐蝕するのは、空気中に水蒸気として含まれていた水分が温度の変化に伴って水滴となり、これに空気中の酸素が作用して鉄を銹らすものである。この水滴の層が薄ければ酸素の供給は充分となり腐蝕は早いものである。特に入梅時銹の目立つのは空気中の水蒸気が飽和状態に近く、しばしば金属表面に滴をつくるためである。

二、金属の土壌中腐蝕

環境の一つとして土壌中腐蝕がある。土壌の物理的、化学的性質が腐蝕度に甚だ影響する。酸性、電導度、塩類含有量、湿度などが高いと一般に腐蝕度は大きい。

通気性が悪いと一般に均一に腐蝕するが、よいと点蝕になり易い。土壌中の腐蝕は金属の組成による影響よりも、土壌の性質による腐蝕の方が大である。」

三、金属の腐蝕の防止

金属の腐蝕の防止としては、化学的に安全な金、銀、メッキ、ステンレス等がある。しかしこの場合でも金属体と環境との反応が不可能ではなく、安定な化合物を通しての接触、環境物質の金属表面への進出等により化合物の成長は存在する。

四、腐蝕度の測定

全面腐蝕は金属表面が一様に消耗し、時の経過と共に厚さが変わる。その速度は環境と金属体とのエネルギーの差、あるいは化学的親和力の違いで決まり、その大きさの大きい程腐蝕が早い。

五、考察

以上腐蝕の理由により、腐蝕は環境に著しく左右され、その環境も自然界にあっては再現性は困難である。かつ耐蝕性を持ったものについてはその腐蝕量は少なく、計量等によって埋没時間を推定することは困難である。

六、結論

時計の埋没時間を推定することは、環境条件に著しく左右されるので困難である。』

旨の回答を得たため鑑定嘱託しなかった事情もあり、これに加えて前記第二、の三、時計の発見に関する項でも述べたように、被告人が道路上に投棄したこと、小川松五郎によって発見届出されたことは明らかであるから、現在に至って特に主張のような立証趣旨による鑑定は必要ないものと考える。

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○写真は、発見されたシチズン・ペット腕時計。だが警察が捜していたのはシチズン・コニー腕時計。機種が違うではないか。さらには、石川被告人が被害者の腕時計を路上に捨てたという時期から五十日も経った後、すでに複数の捜査員が二日がかりで捜索したにも関わらず、付近に住む杖をついた老人が散歩中にこれを見つける。捜索のプロが見つけられなかったものを杖をついた老人が見つけたのだ。

(引用した写真二点は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)