【公判調書1357丁〜】ここには、第三十回公判調書(手続)に記載された「証拠関係=別紙証拠関係目録記載のとおり」とある目録が載っている。
(これが目録である)
【公判調書1359丁】第三十回公判調書(供述)
中田直人主任弁護人(以下、弁護人と表記) =「あなたは前に裁判所で地図を書いたことについて話しましたね」
石川一雄被告人(以下、被告人と表記)=「はい」
弁護人=「その地図を実際にどういう風にして書いたか、覚えていることがあったら言ってください」
被告人=「藁半紙に書いたような気がします」
弁護人=「何で書きましたか」
被告人=「ボールペンで書いたときもありますが、主に鉛筆です」
弁護人=「書くときに藁半紙の下に何か敷くのですか、机の上ででもすぐ書くのですか」
被告人=「畳の上に黒いでかいゴム板を下敷に敷いてその上で書きます」
弁護人=「ゴム板を下敷にして書く藁半紙の枚数ですが、一枚だけに書くのですか」
被告人=「ピンセットで二枚挟んで重ねて書くのです」
弁護人=「藁半紙二枚を紙ばさみで挟んでゴムの下敷の上で書くということですか」
被告人=「そうです」
弁護人=「それは、狭山署にいるときからそうでしたか」
被告人=「川越に行ってからです」
弁護人=「二枚の紙の間に何か挟むのですか」
被告人=「別に挟みません」
弁護人=「黒い紙か何かを挟んだことはありませんか」
被告人=「挟みません」
弁護人=「何も挟まないと、下の紙は何に使うのですか」
被告人=「挟まなくても力を入れて書くと下の紙に写るのです。それを見て遠藤さんがその跡を書いたり何かしたです」
弁護人=「あなたが二枚重ねた上に書きますね」
被告人=「はい」
弁護人=「そして下に写るでしょう」
被告人=「はい。力を入れて書けといえば、力を入れると写ります」
弁護人=「力を入れて書けと言われたのですか」
被告人=「はい」
弁護人=「それで下の紙に写りますね」
被告人=「はい」
弁護人=「写ったのはどうしたのですか」
被告人=「最初の頃は遠藤さんがこう書けるといって自分が書いたのと同じように書いて見せたです。下に写っているから同じように書けるわけです」
弁護人=「そうすると、あなたが二枚の紙の上に書いて、下の紙に写っているのに遠藤さんが書くという様なことがあったわけですね」
被告人=「はい」
弁護人=「今、最初の頃と言いましたが、今言ったような地図の書き方と違う書き方をしたことがあるのですか」
被告人=「ええ。五日ぐらい経って、もっと経ってからかも知れないですけど、今度はあべこべに遠藤さんが上に書いて、遠藤さんのあとを私が書いたような紙もあります」
弁護人=「そうすると、遠藤さんが、あなたがさきに言ったように二枚重ねた上に書いて、下に写ったものの上にあなたがなぞるということもあったわけですか」
被告人=「そうです。随分失敗して破かれたこともありますけど、それでも書いたです」
弁護人=「破かれたというのはどういう意味ですか」
被告人=「遠藤さんが書いたけれども力を入れて書いてない所があるのです。そこのところは分からないから変な風に書いたのです」
弁護人=「よく写っていない所があって変な風に書いたところもあったわけですか」
被告人=「はい」
弁護人=「そうしたら破ってしまうわけですか」
被告人=「そうです」
弁護人=「あなたが最初から書いた地図と遠藤さんが書いた地図と二種類あることになりますね」
被告人=「はい」
弁護人=「どちらが数が多いですか」
被告人=「おれが書いた方が随分多いような気がします」
弁護人=「あなたは前に、二十三日から三十日ごろまで毎日地図を書いたということを言ってますね」
被告人=「はい」
弁護人=「全部で何枚ぐらい書いたつもりですか」
被告人=「五十枚は書いたと思います」(続く)
*冒頭から取調べにおける違法性が暴露され、油断していた老生はその刺激を緩和させるため酒をあおった。身体中にアルコールが回るのを待ち、指先の震えが鎮まったことを確認、再び調書を眺める。こういった裁判記録を手にする前から狭山事件関連書籍を読み耽っていた老生は、事件当時の取調べにおいて筆圧痕問題が存在していることは漠然と把握していたが、やはり公判調書に目を通すとその具体的なやり取りが明確に記述され、その文面からは真実の持つ凄みすら感じ取れる。さて、この筆圧痕問題の当事者である遠藤であるが、自主的にこの様な行動を行うことは考えられない。何故ならば彼は警察組織の一員であり、あくまで上司による指揮のもとで動く兵隊なのだ。そして誰がその指揮を取ったのか、ここで浮かび上がる人物は、長谷部梅吉、清水利一の二人である。
とりあえず柿でも喰うか。