【公判調書1276丁〜】証人=霜田杉蔵・六十一才・元浦和刑務所拘置区長。問うのは中田弁護人(以下、弁護人と表記)
弁護人=「あなたのほうで、判決後石川君の態度なんかに注意していた頃に死刑判決を受けたということについて、石川君からあなたが相談を受けたことはありませんか」
証人=「死刑の判決があったからといって別段どうしたらいいかとか、どうしようとか、そういった相談を受けたことはありません」 弁護人=「石川君はあなたに、みんなから、お前は死刑だぞと言われているけれども僕は本当に死刑になるのかということを聞いてきたことはありませんか」 証人=「そういった記憶は憶えておりませんが」 弁護人=「石川君が自分から控訴すると言い出したのではなくて、あなたのところへ相談に来たので、あなたが東京のほうへ控訴すればいいということを勧めたのではありませんか」
証人=「別段、私のほうから控訴しなさいと勧めたような記憶はありません。控訴する場合にはどうしたらいいのかと、或いは聞かれた場合の記憶はありますが、私のほうからこの事件について控訴しなさいと言ったことはありません」 弁護人=「石川君に対して、私も嘆願書を書いてやるという趣旨のことを述べたことはありませんか」
証人=「何の嘆願書ですか」 弁護人=「裁判所に対してでしょうね」 証人=「そういった記憶ございません」 弁護人=「一審判決の前後を問わず、あなたと石川君との間で嘆願書を書いてあげるとかいう話が出たことは一度もありませんか」
証人=「何の嘆願書のことですか。別に嘆願書を書い てやるとか書いて下さいとか、そういったことを言われた記憶もしてません」 弁護人=「あなたは昨年の五月頃には、もう浦和拘置所を辞めていらっしゃったわけですか」 証人=「はい、退職しました」 弁護人=「浦和拘置所をお辞めになったのちに石川君のほうから拘置所を経由して、葉書を受け取ったことがありませんか」 証人=「あります」 弁護人=「往復葉書でしたね」 証人=「そうです」 弁護人=「石川君は返事を求めてきたわけでしょう」 証人=「はい」 弁護人=「どういうことについて返事を求めてきたのでしょうか」 証人=「本人の書いた内容によりますと、何か、今も申しました歌のことじゃないかと思いますが、何か本人は、綴ったものを区長さんのところにお渡ししたような気がするけれども判らないでしょうかということでしたが、只今申しました通り、私はさっぱり記憶がありませんから、もしそういった物を預かったとすれば石川君が移監する場合、一件書類と共に全部やってあるから手元には無いからと、早速返事しました」
弁護人=「あなたは、尋ねてきた事については記憶が無かったんですね」 証人=「はい」 弁護人=「早速と仰いましたけれども、直ぐご返事されましたか」 証人=「直ぐでもない、二日か、三日間かあったと思います」 弁護人=「書信の関係を調べれば事は明瞭なんですが、あなたは返事をする迄の間に十日以上かけておられるのではありませんか」
証人=「そんなに長くは日にちがかからなかったような気がしますが、あるいは役所のほうへ回ったんで日にちが遅れたんじゃないですか。一応拘置所のほうへ回って、拘置所のほうから私の住まいのほうへ来たので、その間の日にちがずれたんじゃないですか」 弁護人=「あなたは、石川君からの問い合わせの手紙に対して、浦和刑務所なり東京拘置所なりに問い合わせの問題について調べてくれと言ったことはないんですか」 証人=「私が拘置所へですか」 弁護人=「ええ、浦和にせよ、東京にせよ」 証人=「いや、そういうことはありません」 弁護人=「もちろんあなた自身、直接拘置所の記録を見ようとしたことも無かったんですか」 証人=「ありません」 ・・・続く。
ところで、画家の山下菊二が狭山事件に触発され描いた油絵(写真参照)について調べているが、ネット上ではほぼ情報が上がってこない。脅迫状に書かれた「西武園の池の中」という言葉が挿入された不気味な油絵は下手な肝試しより、よほど涼みが味わえる。この絵を頭に思い浮かべ狭山現地を訪れれば、残暑など、どこ吹く風、むしろ寒すぎ悪寒さえ覚えるのである。