*死刑判決という、自身の命が関わる重大問題を気にも留めず、拘置所の運動場で池田証人と元気よくキャッチボールをおこなうとは、己れに下された極刑に対し、なんとも軽い受け止めであろうか。長谷部梅吉警視と交わした男の約束とは、それほどまで石川被告人の思考を支配していたのだろうか・・・。
狭山の黒い闇に触れる 328
【公判調書1255丁〜】 証人=池田正士(二十四才・自動車運転手) 問うのは宇津弁護人(以下、弁護人と表記) 弁護人=「そうすると十年とか十五年で出られるんだということを、それはどういうことなんですか。どういうことで石川君はそういうことを言っていたんでしょうね、分かりますか」 証人=「自分には・・・・・・、今思い出したんですが、共犯がいると言うようなことをちょっと言ったことがあったですね」 弁護人=「どうして十年とか、十五年だったかも知れませんが、そういう期間経つと死刑の判決が出ても出られるんだという話でしたか」 証人=「それはええと・・・・・・、控訴すればそういう風に、それはまぁ、あくまでも自分の考えですけれども、そういう風に控訴すれば分かって、なるのかなと思っていたんです。別に本人からはそこまで聞いてないんです」 弁護人=「あなたは石川君から、石川君が警察の人に調べられた内容について、いろいろ説明を受けていたということはありますか」 証人=「ええ、それも言ったです」 弁護人=「石川君の話の中に、警察のほうから何か約束してもらっているんだという話は聞いたことないですか」 証人=「約束・・・・・・、ちょっと記憶ないです。ただ取調べの時に、小さい時から野球なんかを一緒にやった巡査がお菓子を持って聞きに来たから、それに話したんだというようなことを言われたんです。小さい頃からよく野球なんかをやって遊んだ顔なじみというんですかね、その人が来て、お菓子を持って来て、巡査が調べに来たから話したということは記憶にあります」弁護人=「取調べの人から十年経てば出してもらえるという約束をしたんだとか、そういうような話はしていませんでしたか」 証人=「何か・・・・・・はっきりしないんですけれども、そう言われてみればそうだったかなとも、こう思います。ちょっと記憶がはっきりしないんですけれども」弁護人=「あなたは石川一雄君なんかと一緒に運動もするんですか」 証人=「運動の時は一緒だったです」 弁護人=「一雄君は元気よく運動していたんですか」証人=「ボールが一つ庭にあるんですけれども、そのボールを投げっこして遊んだです」 弁護人=「さっき石川君に対する印象として普通の人だったということを言われましたね」 証人=「ええ」 弁護人=「その意味ですがねえ」 証人=「まあ普通の人と言うよりまあ、自分なんかまあ何年体刑をくうとかそういうので一年か二年で考えこむような状態なんですけれども、判決が下ったという、まあ、それを顔にも出さないし、気にとめてなかったようです」・・・続く。