狭山の黒い闇に触れる 313
【公判調書1228丁〜】 証人=横田権太郎(昭和三十八年五月一日、事件現場付近で家族と農作業を行っていた)。 問うのは平岡俊将検事(以下、検事と表記)。 検事=「先ほどお話しの、図面の⑫の所から南へ下がった道路の所に面した畑の仕事を済まされて、別の畑に行って仕事をされた、それはやっぱり同じ方向ですか」 証人=「同じ方向です」 検事=「それは同じ位の大きさの畑ですか」 証人=「そうですね。やはり一反位ありましたから」検事=「そうすると大体、同じ位の時間がかかった」証人=「そうです」 検事=「それで、全部それもやられて、それでお帰りになった」 証人=「はい」 検事=「うちへ帰られたのは、どれ位の時間だったか覚えておられますか」 証人=「はっきり覚えておらんけれども、恐らく五時頃じゃなかったかと思いますが」 検事=「その前のほうの畑で仕事をしておられる時に、もう相当雨が降ってきたわけですね」 証人=「ええ、そうです」 検事=「その今の話の仕事をされた日が三十八年五月一日だということは、どうしてお分かりになりますか」 証人=「その当時の事件、大変でしたからね。五月一日にあの事件があったということはもう大変な騒ぎになったんですよ。だからこの先幾年経ってもそれ、忘れないと思います」 検事=「その事件のあった日というのは、こういう日だったなということを覚えておられるわけですか」 証人=「ええ、その日に、この畑で仕事をしていたということも、恐らく生きてる内は忘れないと思います」 検事=「そのあなたの覚えておられる五月一日の日が、この仕事をしている時に、その頃からもう雨の降った日だということは間違いありませんか」 証人=「ええ、間違いありません」 検事=「五月一日以外には、そういう風な今お話の二つの畑で仕事をされたことはないんですか」 証人=「ないんです」 検事=「そこでね、お宅の最初に仕事をされた畑の図面の①の所から、こう南へ下がってくる道路ね、そこの百二、三十メートル間があると言われましたね」 証人=「はい」 検事=「その間の畑には、その頃何があったかご記憶ありますか」 証人=「他所の畑のは記憶していませんけど」 検事=「その①から南へ下がってくる道が見えるということは、結局どういうことなんですか。見えるような状態の所だと、こういう一般的な意味なんですか」証人=「そうですね。現在でも見えますから、その間は」 検事=「現在はその間の見えるとおっしゃるその間の畑には、何が植わっていますか」 証人=「まあいろいろですがね、桑もあるし、ごぼうのようなものも出来ているし」 検事=「桑の木なんかが伸びちゃって葉が出たりなんかしたら見えない場合もあるんじゃないですか」 証人=「見えない所もあります」 検事=「そのあなたがよく記憶しておられる五月一日に、図面の⑫の所から南へ下がる所の道に沿った畑で仕事をしておられる間に、あなた自身は立ち上がるか何かして①の所から南に下がる道路の方を一遍でも見た記憶がありますか」 証人=「さあ、全然記憶はありませんが」 検事=「見たという記憶はない」 証人=「ええ」 昭和四十三年九月二十一日 東京高等裁判所第四刑事部 裁判所速記官 重信義子