ここからは平岡俊将検事が尋問を行なっている。証人は横山ハル。 平岡検事(以下、検事と表記)=「畑へ行かれたのは、お昼済んでから行かれたわけですね」 証人=「そうです」 検事=「大体、時間はどれ位になると思われますか」証人=「一時近所(原文ママ=筆者注)ですね。一時いくらか前のこともありますし」 検事=「お宅から畑までダイハツで行きますと、どれ位かかります」 証人=「五分位でしょうか、計ったことないんですけど」 検事=「そうすると、大体一時前後には畑へ行っておられたと、こう承っていいわけですね」 証人=「そうですね」 検事=「それで、雨が降り出してお帰りになるまで相当長かったですか」 証人=「あまり長くないと思います。時間がはっきり分かりません」 検事=「お宅へ帰られたのは何時頃か分かりませんか」 証人=「時間は分かんないですけど、ただうちへ帰ってお茶を飲んだんですけどね、それが必ず三時だったとも限らないんです。分からないんです」 検事=「家へ帰って、すぐ夕飯というような時刻ではないんですね」 証人=「そうでもなかったです」 検事=「大体お茶の時間位ですね。そうすると」 証人=「そうじゃないかと思うんですけど」 検事=「それでね、その今、弁護士の方からお尋ねになったことが、三十八年の五月一日であるということは、どういうことから言えるんですか」 証人=「一日に婦人会の役員会があったものですから、それで荒神様のお祭りが一日なんです」 検事=「その日に畑に行かれたということは、記憶があるわけですね。それが今のお話の事情になるわけですね」 証人=「はい」 検事=「そこであの畑は、今お話の農道と高さはどうなっていましたか」 証人=「畑の方が幾分高いです」 検事=「どの位高い」 証人=「一尺位でしょうか」 検事=「全体にそうですね」 証人=「ええ。でも南に行くにしたがってずっと高くなります。ずっと坂ですから」 検事=「そうすると林のある方に向かって行くにしたがって、畑の方が高くなるわけですか」 証人=「そうです。ちょっと一足じゃ上がれないんです。南の方は」 検事=「桑の下刈りか何かのようですけれども、五月一日当時の桑はどういう風な状態頃(原文ママ=筆者注)ですかね」 証人=「もう、じきに春蚕が始まりますから」 検事=「枝が伸びて葉が伸び出ているんですか」 証人=「出ています。お蚕がじきに始まりますから」検事=「桑の高さですが、あなたが仕事をしておられて、それより背が高いくらいですか、低いくらいですか」 証人=「低いんです」 検事=「そうすると、畝の中に入って仕事をしておられるわけですね」 証人=「はい」 検事=「そうすると、その仕事をしておりながら、人が通ったか通らんか、というようなことがすぐ見えるような状態ですか」 証人=「見れば見えます」 検事=「やっぱり桑の葉はずっと茂っているわけですね」 証人=「まだ、あんまり茂っていません。十二日頃に蚕の掃き立てになりますから、その時分だと桑の一葉がこのくらい(親指と人差し指で鶏卵大の大きさを示す)になりますから、あんまり中が見えないほどじゃないんです」 検事=「そうすると道路の方を、仕事をしながらでも立って見れば見えるということですか」 証人=「はい」 検事=「気が付かなければ別ですけれどもね」 証人=「ええ」
( 狭山事件資料より引用)( この写真は本文とは関係ないが、不老川にかかる権現橋付近から堀兼農協を望んだ情景である。この豊かな農作物群の眺めは心が安らぐ。是非この緑色を一番目のモノクロ写真に脳内にて合成されたい次第である)