(写真は当時の入間川駅付近)
狭山の黒い闇に触れる 303
【公判調書1211丁〜】 *これより問うのは平岡検事(以下=検事と表記)。 検事=「先程、中田弁護人のお尋ねにあったことなんですけど、五月一日に八百屋の息子さんに会ったのは、あなたが入間川の駅に降りて、学校のほうへ行く時ですか、引き返して来る時ですか」 被告人=「行く時です」 検事=「あなた、ここの裁判所になってから最初の第三回の公判の時に、五月一日に入間川の駅に降りてからのことについて、駅に降りてから馬車新道という道があるが、俺、家の人に見つかってはいけないから、その馬車新道から清水という店があると、そこの所を通って農業会の前を通って、それから農業会前からぐっと抜けて八幡様があると、で、八幡様のちょっと向こうで煙草を買って、それからずっと学校のほうへ行ったと、こういうことを言ったのを覚えていますか」被告人=「言ったような気もします」 検事=「その点について、ここの裁判所になってから現地へ検証に行きましたね」 被告人=「はい」 検事=「その時に五月一日通った道だと言ってあなたが案内した道は違ってますね」 被告人=「はい、違ってます」 検事=「そのことについて、あなたから四十一年五月十二日付の上申書というのを出されて、五月一日の道順ということについて前の馬車新道を通って伝々ということを言っておったとするとそれは誤りで、先日検証の時に通ったのが本当ですと、こういうことを言ってますね」 被告人=「はい」 検事=「あなたが会った八百屋さんというのは、馬車新道のほうを通ったというあなたの説明の道筋では通りませんね」 被告人=「はい」 検事=「これは間違いないですね」 被告人=「はい、通らないです」 検事=「そこでね、あなたは入間川のあの駅の付近から学校のほうをよく知っているでしょう」 被告人=「はい、知っています」 検事=「それが、あの大通りと馬車新道という横の方の小さい道ね、それどうして間違えて最初の時に言ったんでしょうか」 被告人=「ちょっと分かんないです」 検事=「間違える筈はないように思うんだけれども、やっぱり言ったほうが間違いですか」 被告人=「はい、そうです。話したことは間違いないんです。八百屋の息子と」 検事=「その通った道は、検証の時に行ったほうが本当なんですか」 被告人=「ええ、そうです」 検事=「前のほうが間違いですか」 被告人=「はい」 検事=「あれは馬車新道のほうと、それから本通りのほうは人通りはどうです。どっちが多いですか」 被告人=「やっぱり検証の時に通ったところの方が多いと思います」 検事=「そこでね、そのあなたが第三回、先程の一番最初に言われた時には、その駅を降りて馬車新道に行ったのは、弁当を持って仕事に行っているということを父ちゃんに言ったから、親父はすごくうるさいと、で、怒られるから、家の者なんかに見つかるといかんと思って馬車新道を通ったんだということまで説明しているわけなんですよ。これ間違いでしょうかね」 被告人=「間違ったと思います」 検事=「それは間違いですか」 被告人=「はい」 検事=「それから裁判所と検証に行きましたね」 被告人=「はい」 検事=「ここの裁判所になってからですよ」 被告人=「はい」 検事=「あの時に、まぁ事実はともかくとして、本件であなたが○○(被害者名)ちゃんを殺したということになっておる現場がありましたね。あの四本杉ですか三本杉ですか」 被告人=「はい、はい」 検事=「あそこの方向、どっちになりますかね、ちょっと北の方になるように思うんだけれども、穴を掘ってあった所ありましたね」 被告人=「はい」 検事=「見に行ったでしょう。あれ覚えていますか。大きな穴」 被告人=「はい」 検事=「あのことについて、あなたは五月一日だかその前の日だか、何か松の木か何か堀に行ったりなんかして、あそこに穴があったということを知っておったと言われましたね」 被告人=「はい、知っておりました」 検事=「その当時のあなたが見た時の、あの掘った土は付近にありましたか。ありませんでしたか」 被告人=「ありました」 検事=「盛り上げてあった」 被告人=「ええ、ありました」 検事=「何の穴かということは分からない」 被告人=「ええ、分からないです」 検事=「そうすると、あなたが事件の日だか前の日頃に行って見た時には、まだ新しい穴でしたか」 被告人=「・・・・・・」 検事=「掘ったばかりのようでしたか」 被告人=「そんなじゃないです」 検事=「大分古くなっていた」 被告人=「ええ」 検事=「それでも掘った土はありましたか」 被告人=「ええ、ありました」 (以上 沢田伶子)『この速記録は、裁判所速記官佐藤治子および裁判所速記官重信義子が速記した速記原本にもとづき反訳したものである』昭和四十三年九月二十四日・東京高等裁判所第四刑事部・裁判所速記官佐藤治子・裁判所速記官沢田伶子