*石川一雄被告人は、狭山警察署で、弁護人の言うところの「セルロイドに入った脅迫状」を手本に、紙に書き写す日々を送った・・・。 弁護人=「その頃あなたは、何十回も書かされていたので、その中身はほとんど憶えていたんですか」 被告人=「ほとんどってこともないですけれども、ある程度憶えました」 弁護人=「で、川越へ行って、原検事に言われた時は、その手本を見ずに書いたわけですね」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「警察で、あなたが前に書いた文字を見せられて、これはお前の字だろうと言われたことがありますか」 被告人=「あります」 弁護人=「いつ、どういう機会に書いた文字ですか」被告人=「うちで書いて警察官に渡したやつと、それから東鳩にいた時のやつと、それからもう一つは十四軒という所に住所を置いてきた紙だと思います」 弁護人=「東鳩のは欠席届か何かですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「あれは全部あなたが書いたものですか」 被告人=「私が書いたものじゃないのもあります」 弁護人=「あなた以外に誰が書いたか憶えていますか」 被告人=「はっきり判らないですけれど、滝本とか梶原、そういった人に書いてもらったような気がします」 弁護人=「滝本、梶原、その人たちは東鳩に勤めていた同僚ですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「十四軒のほうへ住所を置いてきたことがあると言いましたね」「十四軒の何という人の所へ住所を書いてきたんですか」 被告人=「ちょっと判らないです」 弁護人=「どういうことからその十四軒の家へ行ったか、簡単に説明して下さい」 被告人=「石田豚屋を飛び出したものですから、植木屋さんが百姓をしないかと言うもので、そこへ奉公してくれと言われたので行きました」 弁護人=「植木屋さんというのは誰ですか」 被告人=「奥富何とかです。名前は分からないですけど。それで結局、駅前で三十分ぐらい話して植木屋さんの親戚だということにして、豊岡の方へ三年ばかり奉公に行ってたという風に嘘をつくから、そのようにしてくれと言われたもので・・・」 弁護人=「植木屋さんがそう言ったわけですね」 被告人=「はい。それで向こうへ行って奥さんに聞かれたので、豊岡の方に三年勤めていたと嘘をついたんです。そしたら、来てもらいますから住所だけ置いて行って下さい、と言われたので書いて置いて来たんです」(続く)
(脅迫状の文字)