弁護人=「今まで聞いて来たいろいろの事は、大体、長谷部さんに言われたり尋ねられたり教えられたりしたことですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「あなたは、出来た調書を読んでもらいましたか」 被告人=「自分の言ったことだし、あるいは言ってもらったことだから、読んでもらわなくてもいいと言ったです」 弁護人=「全然読んでもらったことはありませんか」 被告人=「ほとんど読んでもらいません。原検事さんにもほとんど読んでもらいません。自分でいいと言ったです」 弁護人=「自分でいいと言ったのはいつ頃ですか」 被告人=「最初からほとんどです」 弁護人=「狭山にいる時から」 被告人=「ええ、ほとんどです」 弁護人=「狭山にいて盗みをしたり乱暴したという話はしましたね」 被告人=「しました。あの時もそうです」 弁護人=「その時も読んでもらわなくていいと言ったのですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「川越に行って調べられた時には、読んでやろうかというようなことは言われましたか」 被告人=「狭山にいた時から、いいと言ったから、多分言われなかったと思います」 弁護人=「いちいち読むぞなどという話は全然出ずに、狭山にいる時から読んで聞かせてもらっていないということで、そういう状態が続いていたわけですね」 被告人=「そうです」 弁護人=「先程、河本検事に調べられた時に出来た調書に名前を書かなかったことがある、と言いましたね」「その調書のほかに名前を書かなかった調書がありますか」 被告人=「ほとんど書いたような気がします」 弁護人=「調書を取る時は、主として長谷部さんがあなたに聞いていたわけですね」「聞いてから、誰かがまとめたわけですか」 被告人=「もし長谷部さんが尋ねるのだったら青木さんがそばに居て、言う都度書いていきます。狭山にいる時は諏訪部刑事課長さんがほとんど尋ねて、調書は大宮の主任が書きました」 弁護人=「その調書に、後で名前を書いたり指で印を押したりしたのでしょうが、いつも調べが終わった時に、すぐ名前を書いたりしましたか」 被告人=「三時のお茶とか十時のお茶とか、あるいは刑事なんかがちょっと用事があるときは、一回留置場へ帰るので、その都度やるとは限りません」 弁護人=「何通かまとめて名前を書いたりしたことはあるのですか」 被告人=「あります」 弁護人=「あなたの今の記憶で、一度に一番多く名前を書いたのは、何通ぐらいでしたか」 被告人=「三通ぐらいはよくありました」(続く)
*私は過去に、ある事件の参考人として事情聴取を受けた。聴取後、取調官が私に調書を読んで聞かせたが、その一部の内容が違うと指摘すると、取調官は修正し再び私に読み聞かせ、納得した私は署名押印した。今回引用した石川一雄被告人の証言を見ると、今さら言うまでも無いが、警察は法律違反を行なっている。【刑事訴訟法第一九八条の四・前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ又は読み聞かせて、誤がないかを問い被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない】
(写真は“ 新聞集成昭和編年史 昭和38年版Ⅲ ・東京:新聞資料出版 ”より引用)