(続く)
狭山の黒い闇に触れる 281
弁護人=「警察に捕まるまであなたが書いた字のことで、ちょっと聞いておきますが、前に筆跡鑑定をする先生から聞かれた時に、国分寺のおじさんの所で手習いをしたと言ってましたね」 被告人=「はい」 弁護人=「どのくらいの期間したのですか」 被告人=「三ヵ月くらいです。丁度半年居ましたが」弁護人=「いくつの時ですか」 被告人=「十五の時です」 弁護人=「前に十六と言ったんじゃないですか」 被告人=「十六の時は宮岡長平さんの家に居ましたから」 弁護人=「その後あなたは警察に捕まるまでの間、欠勤届に自分で書いたこともあるでしょう」 被告人=「はい、あります」 弁護人=「欠勤届以外にあなたの名前の文章を書いたことがありませんか。或いは自分で何か書いたことがありますか」 被告人=「血液銀行へ行った時も自分の名前を書いて来ました」 弁護人=「あなたは海老沢きくえさんという婚約者が居たでしょう」 被告人=「はい」 弁護人=「その人に手紙を書いたことがありますか」被告人=「あります。それから、書いてもらったこともあります」 弁護人=「書いてもらうのは、誰に書いてもらったんですか」 被告人=「私の姉の、義兄の石川仙吉さんに書いてもらいました」 弁護人=「義理の兄さんの仙吉さんですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「それ以外にはあまり字を書いたことは無いんですか」 被告人=「はい」