「技師」の「技」が「枝」という漢字を用い表記されている。ブログには訂正し引用させていただいた。法廷で記録した速記符号を反訳し速記録を作る。これは裁判所・速記官の仕事であるが、まぁ、昭和四十一年の記録物ですからな、たまに誤字(誤訳)を見つけると、むしろ和んでしまうのである。
狭山の黒い闇に触れる 155
これより戸谷鑑定人による筆跡鑑定事項中第二の鑑定を行なったための資料としての被告人質問が始まる。筆跡鑑定事項第二の鑑定とは、石川一雄被告人の筆跡に関する、(イ)埼玉県警察本部刑事部鑑識課警察技師・関根政一、同 吉田一雄連名の昭和三十八年六月一日付鑑定書(記録第三冊九〇四丁)(ロ)警察庁科学警察研究所警察庁技官・長野勝弘の昭和三十八年六月十日付の鑑定書(記録第四冊九六〇丁)(ハ)文書鑑定科学研究所長・高村巌の昭和四十一年八月十九日付鑑定書(記録第一四冊)の、各鑑定の方法および結果の相当性について、である。戸谷鑑定人 : 「被告人の学歴は」石川被告人 :「名目は中学二年まで行ったことになっていますが、実際は小学校の五年の終り位までしか行っておりません」戸谷鑑定人 : 「それ以後はどうしていたか」石川被告人 :「方々に勤めていました」戸谷鑑定人 : 「勤めていたとき、帳簿を付けたりしたことがあるか」石川被告人 : 「半年位、夜だけ字を習ったことがあります」戸谷鑑定人 : 「それは何才位の頃か」石川被告人 : 「十五才位の頃です」戸谷鑑定人 : 「一日何時間位習ったのか」石川被告人 : 「仕事が終わってから、毎日一時間か、一時間半位、そこの姉さんから知らない字の読み方や、それの書方を教わったりしました」戸谷鑑定人 : 「被告人は保谷工場には、いつからいつまで勤めていたのか」石川被告人 : 「一年位です」戸谷鑑定人 : 「被告人が同工場に勤めている期間中、早退されたのは何回か、弁護人から聞いたところでは四回早退届が出されておるということであるが、その四回だけか」石川被告人 :「もっと早退しています。ですから工場の方に早退届がとってあるのではないかと思います」戸谷鑑定人 : 「早退届を見ると五時というのがあるが、五時でも早退届を出さなければいけなかったのか」石川被告人 : 「そうです。名目は八時まででしたから出すわけです」戸谷鑑定人 : 「どの位の割合で早退されたか覚えているか」石川被告人 : 「一週間に二度早退したこともありますから、一ヶ月に二、三回は早退していると思います」戸谷鑑定人 : 「この事件のある数年前に、友達などと手紙のやりとりをしたことがあるか」石川被告人 : 「田無の海老沢菊江という友達に二、三回手紙を出したことがありますが、現在その人の住所は覚えていません」戸谷鑑定人 : 「家の人、あるいは親戚の人との手紙のやりとりはしているか、しているとすれば例えば一週間に一度位はしているか」石川被告人 : 「していません」戸谷鑑定人 : 「被告人がいつも家で使う鉛筆とかボールペンとか万年筆とかいうものは決まっているか」石川被告人 : 「うちで字を習うのは、選挙に行く前位で、後は字を書いたことはありません」戸谷鑑定人 : 「選挙に行かれる前に、自分のうちで候補者の氏名を練習していたのか」石川被告人 : 「そうです」戸谷鑑定人 : 「後はうちでは殆ど字を書いたことが無かったのか」石川被告人 : 「そうです」戸谷鑑定人 : 「何か書く時は家族の人のものを借りていたのか」石川被告人 : 「そうです」戸谷鑑定人 : 「主に誰のを借りるのか」石川被告人 : 「うちにはどこにでもボールペンや鉛筆などが何本か置いてあるので、それを適当に使うわけです」戸谷鑑定人 : 「便箋類とか、ノートとか、封筒とかいうものも家族の者が使うのを使っていたのか」石川被告人 : 「そうです。妹の美智子(当時十三才)のものとか、弟清のものがありましたからそれを使うわけです。なお、私は川越の個人のプレス工場に約一年半位勤めていたことがありますが、そこでは毎日帳簿をつけていました」戸谷鑑定人 : 「それは字を習ったという家とは違うのか」石川被告人 : 「違います。なお、字を習った家の名は今ちょっと言えません」戸谷鑑定人 :「川越のプレス工場ではどういう帳簿をつけていたのか」石川被告人 : 「そこの奥さんが、その日各自がやった仕事の事や、十二時と三時の休みに休んだかどうかをつけておけと言われたのでつけていました」戸谷鑑定人 : 「それは何才から何才までやっていたか」石川被告人 : 「十六才から十七才までの一年半位の間です」戸谷鑑定人 : 「すると字を割合に書かれたのは字を習った十五才位の頃か」石川被告人 : 「そうです」戸谷鑑定人 : 「被告人が読んでいたものは主にどういうものか」石川被告人 : 「時代もののちゃんばらが載っている本は読んだことがあります。その他は漫画位のものです」戸谷鑑定人 : 「被告人は本件で逮捕されてから後、字が非常に上手になっているが、それは逮捕されてから字を練習したのか」石川被告人 : 「別に練習したことはありませんが、原検事にセルロイドのケースに入っていたこの事件の脅迫状かどうかわかりませんが、それを見せられ、それを見ながら書けと言われて書いたことは何回かあります」戸谷鑑定人 : 「何回というと何回位か」石川被告人 : 「留置されてから直ぐですが調べに来る都度書かされました」戸谷鑑定人 : 「その日数は何日位になるか」石川被告人 : 「それはちょっと分かりません」戸谷鑑定人 : 「被告人は中田○○(被害者:筆者注)の父の名は前から知っていたのか」石川被告人 : 「全然知りません」戸谷鑑定人 : 「六月二十七日付かで、中田○○(被害者:筆者注)の父に留置場から出した手紙があるが、あれはどういうつもりで書かれたか」石川被告人 : 「河本検事が、私のうちでも中田の家に謝りに行ったから、お前も謝りの手紙を書けと言われたから、それで書いたのです」戸谷鑑定人 : 「そのとき上書したのは被告人か」石川被告側 : 「そうです」戸谷鑑定人 : 「中田江さくというのは何か見て書いたのか、覚えていて書いたのか」石川被告人 : 「ただ書いたと思います」以下余白・・・。以上が戸谷鑑定人による石川被告人への尋問である。さて、重箱の隅をつつくようであるが公判調書の文中に誤字を見つけた。上から四行目、右端に「技師」という字がある。実は原文では、