狭山の黒い闇に触れる 87
迂闊であった。被害者の万年筆、これの指紋検出作業が行われたかどうか、についてである。私は前回、小島証人は検出作業について聞いていないと簡単に締めくくったが、調書を見るとその次の行に重要な記述があった。弁護人:「現在に至るまで万年筆の指紋検出が行われたかどうかは、いかがですか、聞いておりませんか」小島証人:「聞いておりません」この弁護人の言うところの“現在に至るまで”とは第二審公判、小島証人が出廷しているこの日、つまり昭和四十一年三月五日を指すものである。事件発生から三年程経っていながら、肩書が埼玉県浦和警察署次席である小島証人の耳に入っておらず、まして被告人の自供に基づいたとはいえ万年筆を押収した当人に、この指紋検出作業に関する情報が届いていないとなると、これは小島証人の言う通りなのか、あるいは、実は指紋検出作業は行われたが何らかの事情により伏せられているのかどうか。検察庁が証拠を全面開示しない限り、負の謎として残っていくだろう。