アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 53

【推測】これより記す事柄は単なる推測である。狭山事件必携本《狭山自白・「不自然さ」の解明》(山下恒男・日本評論社)、185頁。本書には珍らしく「推測」と、ことわりを入れた一文が載っており、それとは狭山事件において、犯人が脅迫状を被害者宅に届ける途中、近隣の民家で被害者宅の場所を尋ねる場面についてであり、いわゆる「内田証言」と呼ばれている供述である。ここで著者は「内田証言」を多面的に分析し、その信用性に“多くの意味で問題をはらんでいる”と語る。では「内田証言」が全くの架空かといえばそうではなく、犯人以外の人物が尋ねて来た可能性もあり得る、幅を持った証言であるとして、以下の推測を掲げる。本文から引用すると「事件当日非常招集をかけられた私服の刑事がN家の所在地を尋ねた可能性もある。この時点では、事件の発生そのものを秘匿しておく必要性があった。したがって、脅迫状を届けに行く犯人と錯覚するような秘密めかした雰囲気を持っていたのかもしれない」とある。十分ありうる話であると私は考え、ここにさらなる推測を付け加えてみたい。上記の私服刑事はその後も捜査を続け、やがて犯人は逮捕され、裁判へと進む。その過程において「内田証言」なるものが現れ、石川被告が犯人であるとの方向を硬く補強してゆく。捜査に加わった者として当然、この証言など耳にしたであろう、件の私服刑事は「あれは俺だ」と気付き、同僚などに話したのかどうか。心ある人間であれば事の重大さから見て、まずは同じ階級の親しい同僚などに相談するであろう。私の推測はここまでである。さて、なぜこの様な推測を長々と書いているか、それは以前からの愛読書において印象深い一文が頭にこびりついているからである。「ドキュメント狭山事件」(佐木隆三・文春文庫)、224頁。熊谷事件(冤罪事件)。真犯人Mに代わってTが逮捕された事件。Tの捜査過程において疑義を感じた熊谷署の警察官が匿名で弁護人に手紙を出す。内容は、死体発見現場に指輪が落ちており、しかしそのサイズは大きく、とても被害女性の物とは思えず疑問を呈すると、先輩警察官が「バカなことをいうな、いまさらそんなことを言ってどうするのだ、Tにしておけばいい、犯人はTでいい」とたしなめられたことが書かれていた。ちなみにこの指輪はTの犯行を裏付ける証拠に上げられている。手紙を出した警察官を私は評価したい。これぞ警察官にあるべき真の姿勢である。だが匿名で、というところに警察組織の黒い問題点が垣間見られ、本来なら正直者の集団であるべき組織において「バカなことをいうな」と、いわば正直者が馬鹿をみる本末転倒な組織であることが浮き彫りにされているが、今はそれに触れない。冒頭から続く【推測】について。非常招集をかけられた私服刑事は周囲に「被害者宅の所在地を尋ねたのは私だ」と漏らしたとして、しかし「たしなめられた」と。ふと、そんなことを思いながら私は佐木隆三の本を閉じた。    

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