アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 29

読み応え充分な「狭山裁判と科学」であったが、第五章【死体】については、もうひとつ加えてもらいたい項目があった。本章では死体に関しての内、殺害方法の問題を中心に述べているが、他の、姦淫の態様、死斑の問題、死体の逆さ吊り、胃内容物と殺害時刻等多義に渡る中で、死体の逆さ吊りの問題を扱って欲しかったのである。この問題に関しては支援団体などによる再現実験がなされており記録も書籍化されていることを踏まえれば是非共闘体制を取り本書での論考を期待したのである。「狭山事件・現地からの報告」( たいまつ新書 63 )には「逆さづりはあったのか」との項目がありこの問題に触れている。被告の自白通り、深さ三メートルの穴に約三時間死体を逆さ吊りにした場合、現場検証や死体の検視結果とは合致しない結論が導き出されるのである。例えば五十嵐鑑定では死体後頭部に傷( 凝血あり= 外出血 )を認めているが、穴及びその底からは警察のルミノール反応検査では血痕は検出されず。一九七九年五月狭山事件再審弁護団木村康 千葉大教授の立会いのもと、狭山市内の同種の穴で実験を行う。被害者と同じ身長と体重の人形に実際に発見された時の死体同様、足首に紐を結わえ、荒縄を結び逆さにし、穴の中に吊り降ろし、引き上げる。人形についた傷の位置は下半身後部、肩、後頭部 、後ろ手に縛られた小指外側などに、皮がむけ落ちる程の擦り傷ができる。足首の縛られた部分はソックスの上からとしても皮がむけ落ちている筈、と考察された。しかし被害者の死体にこのような傷は全く見られないのである。一人で体重五十四キロの人形を穴に吊り降ろす際、静かに降ろすことはほぼ無理で頭が底に着いたとき、かなりの衝撃を受ける可能性が強い。この点について木村教授は、「その際は、皮がむけ落ちるほどの傷が頭にできるだろうし、首の骨は折れるだろう」と考察し、さらに穴の中に三時間ほど置いておけば、「死後硬直といって死体は固まってくる。もし底まで死体がおりていたら、穴の中に入らない限り死体をねかすことは出来ない。そこで上体は曲がったままで硬直が進行し、こうなると引き上げは不可能ではないか」と指摘、本項は「確定判決がいうような逆さづりはありえない」の言葉で結ばれている。                  

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(写真上下 : 無実の獄 25年 狭山事件写真集 部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部編  解放出版社より転載 )