アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

日雇いの頃 23

熊本県人吉を故郷とする大酒飲みの堤さんと出会ったのは1996年12月頃、地獄の冷凍倉庫で荷役作業中である。冬場の東品川5丁目は海からの寒風に吹きさらされ、シベリアの強制労働経験者ですら即座に脱走するであろう極寒の孤島に変容していた。この極悪な環境下、堤さんだけは赤ら顔で笑みさえ浮かべている。そして酒臭いのである。話を進める前に断っておきたいが、堤さんと実名を出したのは、すでに故人だからである。私に、広い分野に渡って妙な影響を与えてくれたこの方だけは実名で記録しておきたいのだ。ところで私は人と話しながら、さりげなく「趣味は何ですか」と探りを入れるクセがある。なぜか、それは私にとって付き合うべきか否か、の大事なふるい分けにあたるからだ。そしてこの時10秒くらいボーっとされた場合は即、死刑宣告を下す。私も忙しいのだ。「イボタロウムシから蠟を抽出し、刀の鍔を磨いてます」これは合格。「レイバンのサングラスを収集してますがレンズがボシュロムの頃に限ってです」合格。「神田の古書店で入手した『腹腹時計』に基づき爆弾を製造中です」ん〜合格。という具合であり、やはり堤さんにも同様に問うた。答えは一言、「鉄です」であった。この時から彼が亡くなるまでの、10年弱にわたる付き合いが始まった。