アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

日雇いの頃 22

冷凍コンテナのバン出し作業は過酷な性質上、一本終えると即座に休憩に入る。そしてこんな、単なる捨てたような空白の時間に、意外な出会いが待っていたりする。その日新しく入って来た中年男性S氏と雑談していたが、私が作業時に着用していたビートルズのTシャツがきっかけとなり、ほんの短時間の中、膨大で密度の高い音楽話に花が咲いてしまった。聞けば、自宅にレコードを約3.000枚ほどコレクションしており、その一枚一枚がこだわり抜いた逸品であるとのことだ。リンゴ・スターは「ラブ・ミー・ドゥ」のドラムを叩いてはいない、との開口一番の発言からして、私は身構えてしまったが、タックス・マンは誰がドラムだとか、バック・イン・ザ・USSRはポールがドラムだとか、私がドラム好きという事を踏まえた解説には、S氏の音楽好きに対する愛情が感じられた。しかし彼にとってビートルズなど、あえて言えば白人など目ではなく、黒人ブルースの探求に人生を授けているのだった。私も、まさに同感であり共感し、S氏の勧める黒人ブルースマンを片っ端から聴いていった。それからも束の間の休息時は音楽鑑賞論、楽器論、レコーディングやマイキング、その他もろもろの音楽談義に花を咲かせたものだった。しかし半年後腰を痛め退職せざるを得なくなったS氏は紙切れ二枚を私にくれ職場を去っていった。「本の栞にでもどうぞ」と。                                                                           

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彼は今日もどこかでレコードを漁っているのだろうか?頂いた紙切れ二枚は今、私の御守りとなっている。