アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

日雇いの頃 21

1998年頃、日雇い仲間から台東区にある山谷の話を聞き偵察に向かった。一人で立ち入ると身ぐるみ剥がされ、パンツ一枚の姿で放り出されると脅かされ、戦々恐々としながら危険エリアに侵入した。だが山谷の街はかなり整理されており、肩透かしを食らった。帰り道、浅草のアーケード街に立ち寄ったところ、私を興奮させる光景が目に入った。シャッターが降りた商店の前で堂々と布団を敷いて寝ている男がいるのだ。地べたに直接、布団である。敷布団と掛け布団は羽毛であり、私の物より豪勢な寝具ではないか。激しい嫉妬と羨望の眼差しで見つめながら、衣食住より高級寝具での安眠を優先させているこの男は、人生の3分の2が睡眠時間で費やされる事実を知っていると思われ、となれば彼の取っている行為は人間の本質を突いた、いわば人類が手本とすべき崇高な振舞いなのだと私は気付かされた。路上で熟睡する彼を基点に、買い物客が二手に分かれ流れてゆく様はモーゼの十戒を彷彿させ神々しい。私は眩しいものでも見るように目を細め、しばらくの間笑っていた。