アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

日雇いの頃 19

気がつくと社会の底辺にいた私は、しかし俄然こちらの世界が愉快なことに気づき、この路線で生きるのも悪くないと思い始めた。そんなある日、釣り好きの友人から、多摩川の土手沿いにホームレス達が小屋を建て住んでいる、という情報を得、早速自転車で向かった。場所は多摩川川崎市側土手、当時は花王の工場があったような記憶が・・・歳のせいか失念してしまった。現場に到着した私は息をのんだ。そこに並ぶ小屋の群れはそれぞれが個性的で創造性あふれる、言いかえればデザイナーズ・ワンルームとでも言おうか、とても芸術的な外見を帯び、快適そうな物件が陳列されていた。間取りは推定二畳、風呂トイレ冷暖房無し、拾って設置したと思われる玄関ドア、窓付き。敷地内にはゴーヤ、ナス、瓜、キャベツ等が栽培され、私が来訪した日、ここの住人たちは多摩川で釣ったかどうか知らんがハゼに似た魚を油で揚げ喰っていた。土手に腹這いになり雑草の陰から観察していた私は、恐怖ではなく感動で震えていた。「ココこそがパラダイスではないか!」自由で無税、他に何を欲しようか。彼等に見つからぬようホフク後進でこの場を脱出し、無事、当時のアジトに戻った。発電機と手漕ぎゴムボート、漁獲用の網、七輪、備長炭などを追加すれば、ここ、多摩川土手にてセレブ生活を送れると確信した。実はこれより数ヶ月前、隅田公園隅田川のホームレス観察を済ませていた。公園内に住むホームレス達はまったく覇気が無く、風に吹かれるままの退廃的な生活ぶりと私の目には映った。一方、隅田川の堤防、その川側の遊歩道に点在するブルーシート小屋は、多摩川土手グループとは異質の住居哲学を見せつけてくれた。各小屋の横には発電機が置かれ、内部からテレビかラジオの音声が聞こえてくる。それぞれの小屋の外見がブルーで統一されてる様は、これはこれで規律が感じられ、清涼感さえ漂わせていた。電化という近代的な生活を送る隅田川の住人達は、やはりここが最先端東京であることを実感させてくれた。ブルーシート小屋から漏れてくる焼き肉の匂いを嗅ぎながら、まさか和牛ではあるまいなと疑いつつ家路についた。