Mさんとは、ロッカーが隣同士だった縁で親しくなった。拾ったジャージ上下を着て廃品同様の自転車で通勤する姿は、この業界に多い住所不定者を連想させる上、さらに無類の競馬好きと聞き、最初、私はこっそりと距離を置いていた。Mさんは日雇いフォークリフトとして常勤していたが、耳にイヤフォンを挿し、常に競馬中継を聴きながら荷役作業をこなす。中継が、おそらく第4コーナーを回ったあたりであろうか、フォークリフトを止め、眉間にシワを寄せ固唾を飲んでいる場面をよく見たものである。仕事を終え、ロッカー前で着替えているとMさんもやって来た。「あーまた縫わないとなぁ。」とボヤくので目をやると、物凄い修理痕で覆われたトランクスを履いているのである。Mさんは、「百円あったら俺は馬券を買うよ。」と笑うが、確かに仕事が終わると大井競馬場に毎日直行する彼を眺めていると納得できる。裂けたパンツより、いや衣食住よりも競馬を最優先させる、根っからのバクチ好きなのだった。我々が働く冷凍倉庫は東京の東品川にあり競馬場や競艇場が非常に近い。その日の稼ぎを即、浪費に導く網が仕掛けてあり、社会の底辺層は軒並み網にかかっていくのだ。だが、この時、Mさんの頭上に救済の手が差し伸べられていることに本人はまだ気付いていなかった。